第654話.ましろ
朝起きるとトタトタという物音が聞こえてくる。寝ぼけた眼を擦りながら刻の方を見るが、刻はまだ寝息を立てて気持ちよさそうにしているだけだ。
ベッドの縁に座り、軽く伸びをしてから音の原因を探す。
「んー……下かぁ?」
床に膝をつき、頭もスレスレまで下げてベッドの下を覗き込む。するとそこにある黒いビー玉のような瞳と目が合った。
「みゃあ」
短い足でトタトタとこちらに近付いてくる。
「早起きだねぇ。んー?お腹空いたの?」
「みゃあ!」
「おぉ、そうかいそうかい。じゃあみんなの朝ごはん作ろうねぇ」
私はそう言いながら子猫を持ち上げて刻の横に置いておいた。子猫はキョトンとした表情で刻の顔を見ている。
さて、刻の方に集中してくれている間に私は朝食の準備だ。と言っても子猫ちゃんのご飯は昨日の残りがある。そして私達の朝ごはんも基本は食パンだ。そんな複雑な工程は挟まない。
のんびり鼻歌を歌う程度の気分で作り、準備する。そうしていると寝室の方から腕に子猫を抱いて随分と眠そうな表情をした刻がやって来る。
「なぁ蒼ー、起きたら俺に懐いてくれてた。なんでだろ」
「良かったじゃん」
「うん、良かった」
私が勝手に横に置いただなんて言えないと心の中で叫ぶ。ごめんよ。
けどまぁ、知らぬが仏という言葉もあるのだ。わざわざ刻が悲しくなるようなことは言わなくてもいいだろう。
ちなみに子猫はなんとも言えない表情をしている。
いつかちゃんと懐いてくれるといいのだけれど。
「ご飯出来たよー」
テーブルの上に焼いた食パンを並べ、子猫ちゃん用のご飯は床に置く。
「ほら、食べなー」
刻が子猫をゆっくりと下ろして私達は朝食の時間とした。
✲✲✲
「なぁ蒼さんや」
「なんだね」
「この子の名前はいかがする?」
「そういえば決めてなかったね」
ずっと子猫ちゃんとかそんな風に呼んでいたから完全に忘れていた。にしても名前か。
「刻は何かいい名前ある?」
「白いしハクとか?」
「どっかの川の神様やってそうな名前だね」
「やってるかもしらんなぁ。蒼は何かある?」
「うーん、これといったのは無いんだけど、毛並みが真っ白で綺麗だからましろとかいいのかなぁって思ってる」
「ましろか。……うん、たしかに悪くない。いいな、その名前!」
「じゃあましろにする?」
「そうしよう」
こうして思ったよりもあっさりと名前が決まる。
我が家の家族に改めてましろが増えたのだった。
第654話終わりましたね。ましろとは作者がもし猫を飼えた時につけたいなぁと思っている名前です。ちなみに三毛猫ならミケちゃんにしようと思ってます。(アレルギーだけどね……)
さてと次回は、16日です。お楽しみに!
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