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第653話.子猫の大冒険

 子猫を両手で持ち上げる。相変わらずキュルルとした瞳で私の事を見つめてくる。


「きみ、私達の家族になる?」

「みゃあ」


 返事をするかのような鳴き声。多分私の言葉の意味なんて分かってないし、何となく呼応しただけなのだろう。

 けど、産まれたばかりの子猫の返事としては100点満点だ。


「ねぇ刻、この子迎えよっか」

「え、いいのか?」

「うん。気に入られたみたいだし、何よりこの子ならちゃんと育ててあげられそう。どうですかね」

「僕もそれでいいと思います。その子のこと僕からもお願いしたいです」

「よしっ、じゃあ連れて帰ってあげるか!」


 そうして刻と私の家にもう一匹家族が増えるのだった。



✲✲✲



 子猫を家に連れて帰るのに電車での申請やら何やらを色々と済ませてから奈良を出た。ほんの少しでも観光出来るかと思ったが、この子を家族として迎え入れるのなら観光はまた後日となる。

 長めの電車に揺られる中子猫はこの騒音に慣れないのか少し怯えた様子でケースの中でプルプルと震えている。

 みゃあと鳴くこともないので大丈夫なのかと少し心配になるが、それはせめて外に出てからだろう。

 揺られ揺られて時間が経つと灘駅に到着した。改札を抜けて私達は家に直帰すると子猫をケースから解放する。急に見慣れない家に出されたせいか床も机もカーペットも全てを確かめるようにして歩いていた。


「さて、まずは応急的なこの子の寝床とご飯を用意しないとね」

「寝床は任せろ」

「じゃあ私はご飯作っとく」


 役割分担はしっかりと。

 刻は引越しの際に使用した段ボールが残っていたのを覚えていたのか、部屋の奥から引っ張り出して色々と加工し始める。途中新品のバスタオルを使ってもいいかと尋ねられたので許可も出しておいた。


「んーと、やっぱり本当は子猫用のミルクがいいよねぇ」


 家に無いものは仕方がないから牛乳で代用を、とも考えたが、ただそれで体調を崩したら大変だ。となると水分は水で取らせて、食べるご飯は家にあるお肉を細かく切り刻んであの子の小さな口でも食べられるようにするのが正しいだろう。

 定期的にリビングで大冒険をしている子猫の所在を確認しながら私はご飯作りに勤しむ。普段なら私達用のご飯を作る時間だが、今はこちらが優先だ。


「蒼ー、ベッドできた!」

「ん、おぉー!随分と大きいね」

「ふふーん、この子が大きくなっても使えるようにと思ってな!」

「あれ、ベッドは買ってあげないの?」

「あ、本当だ」

「いや、まぁすぐに買いに行けるわけじゃないから大きい分にはありがたいけどね。あ、こっちもご飯作り終わりそうだよ」

「よしきた。じゃあ俺は小皿とかでも出しとくな」


 後ろでカチャカチャと食器を出しながら準備する。

 刻は先に小皿に水だけ入れて子猫の前に差し出してみる。男性曰く一応猫用ミルクをあげていたので水は飲んだことがないらしいとのこと。そのせいか子猫はその透明な液体を不思議そうに眺めていた。


「んー……飲まないな」


 どうしたものかと悩んだ刻は何を思ったのか自分の指に水を少しつけて子猫の口の前に差し出してみる。すると、刻の予想通りなのか子猫はピンクの小さな舌をピロっと出して水を舐めた。


「みゃあ!」


 水が悪くないと分かったのだろう。それまで不思議そうに見ていた水を次は顔がびしょびしょになる勢いで飲み始める。


「ご飯持ってきたよー……あら、びしょびしょ」


 水の重さで垂れたヒゲ。毛並みもぺったりとしている。

 私はご飯の入った小皿を水の横に置くと適当なタオルを取りに戻った。そして帰ってくると次は顔がご飯で汚れている。


「……この短時間に一体何が」

「匂いにつられて顔から突っ込むように食べ始めたね……うん」


 どうやら止める暇すらなかったようだ。


「……まぁ元気っぽいしいいことか」


 私はそう言いながら子猫を持ち上げる。すると私には既に懐いている影響か顔を擦り寄せようとしてきた。拭きやすいからまぁいいかとも思ったが、そういえばこの子汚れてるんだった。私の服は……手遅れだね。

 また洗濯すればいいと思いながら私は小さな子供のお世話をするように顔を拭いてあげる。


「なんかこうしてみると蒼ってお母さんっぽいよなぁ」

「どうしたの急に」

「いや、ほら、今のこの図が小さな子供を世話するお母さんの図そのものだったからさ」

「んーまぁ確かに?」


 刻にも同じことを言われてやっぱりそう見えるかと納得する。

 綺麗にふき取ってあげると白い体がまた現れ始めた。

 相も変わらずキュルルとした黒目は常に健在。けれど長距離移動とご飯を食べた影響か、すっかりとお眠さんになっている。


「じゃあこの子はもう寝かしてあげようか」

「だな。ベッドは寝室に置いておくか?」

「うん。夜中に何かあったら大変だしね」


 そう言って刻がベッドを、私が子猫を寝室に運ぶのだった。

 ベッドの上に乗せてあげると子猫はすぐにこてんと横になる。そして気持ちが良さそうに寝息を立てるのだった。

第653話終わりましたね。作者はバイト帰りにたまに猫を見掛けることがあります。基本猫と友好条約を結びたいタイプの作者は静かに近づきながら写真を撮らせて貰えないかなぁと近づくのですが、だいたい逃げられます。

さてと次回は、14日です。お楽しみに!

それと「面白い!」「続きが気になる!」という方はぜひブックマークと下の☆からポイントの方をお願いしますね!

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