第652話.白猫
電車とタクシーで移動してやってきたマンション。住宅街にあるような何の変哲もない普通のマンションで、オートロックじゃないところを見るに少し年季の入ったマンションなのだろう。
刻がDMで連絡を取りあっていた人の部屋番を探し、インターホンを押した。
『はい』
「あ、連絡していた鏡坂です」
『あ、すぐ開けますね』
ガチャりと玄関扉が開いた。中から出てきたのは20後半あたりの男性だ。
「一応話にあった猫は奥にいます。僕が多少は人慣れさせてると思うので極端に警戒することは無いと思いますけど、それでも多少は隠れたりするかもしれません」
「分かりました」
「ではどうぞ上がってください」
部屋にあげてもらう。
部屋はいわゆる男性サラリーマンの部屋で、極端な趣味色もなく、殺風景と言えば殺風景になってしまうような部屋だ。
奥に行くと上半分が消失したダンボールの箱が置いてある。中にはタオルが敷かれていて簡易的なベッドが作られていた。
「この子がそうです」
白い体にキュルキュルとした大きな黒目。短い手足でタオルの上をトタトタと精一杯走っている。そうしていると私達の気配に気が付いたのだろうか、ゆっくりとこちらを見て小さく後退りする。
「んー、やっぱりすぐには懐きそうにないかもなぁ」
男性は頭をかきながら、子猫の事をもちあげた。
「少し抱っこしてあげてください」
刻に子猫が渡される。刻は画面越しでしか見れなかった子猫が自分の手の中に収まっていることに感動しているのか、物凄く嬉しそうな表情をしている。けど子猫は少し嫌そうな顔だ。
「そこのソファに腰かけて遊んであげててください。僕は飲み物でも入れてきますね」
そう言って男性はキッチン方に去っていった。
刻は子猫の事をひとしきり可愛がったあとソファ上にポンッと置いた。すると子猫は先程タオルの上でもしていたような走りを見せる。
「元気だね」
私がそう言いながらさらりと頭を撫でてやると子猫がこちらを向く。
どうしたの?という意図を込めて首を少し傾げる仕草をすると子猫も真似をするように首を傾げた。可愛らしい、そう思いながら私は背中や顎の下等を撫でてやる。すると気持ちが良かったのかゴロゴロと喉を鳴らし始めた。
「ふふっ、可愛い」
しばらくこうして撫でていると私の手の周りを頭を添わせるようにしながらぐるぐると回り出す。
「あれ、懐いてますね」
男性はトレーにコーヒーを3つ乗せて運びながらそう話す。
「しかも僕以上に懐いてくれてますよ」
「そうなんですか?」
「はい。抱かせてはくれますけど、この子から擦り寄ってくることはほとんど。そう考えると初日でそこまでベッタリなのは多分気に入られたんだと思います」
「へー……きみ、私の事気に入ったんだ」
また撫でてあげながら私は1人そう零す。
キュルルとした黒い瞳を私に向けながら子猫は私の言葉に返事するようにみゃあと鳴くのだった。
第652話終わりましたね。作者は猫好きなのですがアレルギーで猫が飼えないという話をしたのかもしれませんし、してないのかもしれません。けれどまぁ、いつかは対策して飼ってみたいですね。
さてと次回は、12日です。お楽しみに!
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