第648話.子猫
帰宅後シャワーを浴びて服を着替え、メイクを整え直してまた外に出る。
卒業祝いの食事会と言えど行うのは実家だ。比較的ラフにはまとめてある。
まだまだ日の高い時間なので暖かい。
「刻ー行くよー」
「はいはーい」
部屋の奥から小走りで走ってくる刻を待つ。
刻の服装も同じくラフめでそこまでかっちりとしたものではない。
靴を履き終えたのを確認してから私は手を取り玄関の鍵を閉めてから駅に向かった。
桜並木を見ながら歩く。白桃色に染った景色が綺麗でなんだか嬉しくなってしまう。理由も何も無いけれどスキップしたくなるような。そんな感じだ。
駅には私達と同じ高校の卒業生が制服のまま話していたりする。他クラスで関わりもないので特に話しかけたりはしない。ただ向こうは私達のことを知っているのかちらりちらりとこちらを見ては何だか楽しそうに話している。
うむ、私達が付き合ってそう短いわけでもないから見慣れた景色のはずなのだけれど、まだ珍しいのかしら。
彼女達のことを知らない以上これ以上考えたって仕方がない。
改札をぬけてプラットフォームに向かう。エスカレーターに乗って降りるのだが、これが中々長い。いや、正確には長いのではなくエスカレーターがゆっくりなだけなのだが。
プラットフォームに出るとちょうど扉の来る位置で待つ。灘駅のプラットフォームは改札のある部分の下にあるので薄暗くなっている。雨の降る日にはお昼だろうと関係の無いくらいに暗い。
しばらくするとやってくる電車に乗り込むと摂津本山駅に向かい始めた。
灘駅には快速が止まらず普通電車しか止まらないのがちょっとした不便なところだろう。全ての駅に停まっていられないのは分かるし仕方がないことなのだが、それでも快速の利便の良さはやはり憧れる所だ。
電車のシートに腰掛けてしばらく揺られる旅に出る。車窓の外で流れる景色を眺めるのはやはり楽しい。毎回同じだが、微妙に違う。その日で景色が違うのだ。工事をしていたり新しい建物が増えていたり。天気が良ければ悪い日もある。マンションのベランダで欠伸をしている人だって見えるのだから面白い。
そんななんでもない景色を楽しんでいると刻からスマホの画面を見せられた。
「この子可愛いよな」
映るのは子猫の写真。目がくりくりとしていて足も短い。
「ほんとだね。この子どこの子?」
「保護猫だってさ。野良で親猫とはぐれたらしい」
「あらら」
「んでもってこの写真を上げた人も一時的に保護してはいるけど、ペットが本来ダメなマンションらしくて、今は大家さんに1週間の期限を儲けて許可してもらってるみたいなんだよな」
「期限を超えるとどうなるの?」
「うーん、多分然るべき施設に送るしかないんじゃないかな。何せ元々野良だから病気とかも持ってるかもしれないしで」
「そっか」
「……それでな、俺ちょっと考えたんだけどさ」
「うん」
「この子のこと貰わないか?」
「んぇ?」
思いもしなかった刻の言葉に驚く。
「刻は……飼いたいの?」
「俺は飼いたいと思ってる。俺の勝手な気持ちではあるけど」
「んー……私も迎えてあげたい気持ちは分かるけど、なにぶんこの子を養っていけるだけの経済力があるのかと聞かれたらまた微妙だからなぁ」
命を預かるというのはそう簡単な話ではない。
その場の勢いで決めていい話でもない。
けれど、早くしないとこの子の命がどうなるのかという確証もない。
「もうちょっとだけ考えさせてね」
「うん、分かった」
子猫を飼えばそれだけで生活はまたガラリと変わるだろう。家族が増えるのだから。
第648話終わりましたね。最近TikTokで地域猫の動画を見たのですが、その中でとびきり美人さんな猫さんが出てきたんです。とても可愛らしくて見てて自然と笑顔になりますね。
さてと次回は、4日です。お楽しみに!
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