第643話.卒業式
分厚い遮光カーテンの締め切られた体育館の中。普段は敷かない土足用のマットの独特な匂いが残る。
薄暗い中かかるBGMを聴きながら、保護者の視線を感じながら私達は自分の席に向かった。
練習したとおりにクラスのメンバーが全員揃ってから座る。そこまで至ってしまえばあとは他クラスが集まるのを待つだけだ。
独特な空気の流れる空間。
変な緊張感はあまり心地が良くない。
しばらくして全クラスが集まる。集まってすぐに全クラス起立から始まり、練習した通りに進み始めた。
私達の学校では卒業証書は委員長が代表で貰うことになっている。シンプルな時間短縮と、行動の複雑化を防ぐためだ。非常に合理的で分かりやすい。続々と各クラスの委員長が卒業証書を受け取り指定の場所に証書を置くとまた席に戻る。それを全クラス分してから送辞と答辞のやり取りに入った。
正直この時間が本来緊張感のある卒業式の中で一番暇で眠たい時間。思わず出てしまいそうになるあくびを根性と意地で抑えながら前を真っ直ぐ見るのだ。
にしても生徒代表の2人も別にやりたくもない仕事なはずなのに、よくあれだけ長い長文を用意しているものだ。たまには短くてもいいのだよ?
なんて愚痴は届くはずもなく、ひたすらに無言の時間を過ごすのだ。
そろそろ意識が飛びそうだな、そう思う頃に答辞が終わり一同起立の姿勢になる。ほんの0.数秒遅れて立ち上がりお辞儀をしてまた着席した。
危なかった。本番で思い切り悪目立ちするところだった。
軽く冷や汗をかきながら最後に校歌斉唱となる。
入学してまもなくは全く歌えることのなかった校歌だが、今となっては朝飯前のちょちょいのちょいで歌えてしまうほどには練習を重ねた。
これだけ練習した校歌も数年後、数十年後には頭の隅から跡形もなく消えていくのだろうと思うと少し寂しい。けれど、何かがきっかけでまた聞く機会があればその時は鮮明に思い出すのだろう。
そしてついに終わる校歌。いつもは長いと思いながらの歌唱だったが、こうして考えると案外あっけなく短いものだ。
私達は席に座らされて最後の段階に移る。
ここからは各クラス順番に退場だ。出来る限り華々しく去っていく姿を保護者に見せるようにとのことだ。
華々しい性格をしているわけでも、生活をしているわけでもない上に、それを知っている親からすれば頑張ったところで大した変化は無いのだろうが、けれどまぁ、やれるだけやってみよう。
私達の番になって歩き出す。
途中自分の親を見つけた時は思わず視界が一瞬ぼやけてしまったが、なんとか収めて私達は退場した。
体育館を出てすぐの廊下。晴れている空から射し込む日差しが春の訪れを伝えると同時に、呆気なかった式の感覚をも思い出させる。
これでおしまいなのだ。
第643話終わりましたね。作者は卒業式にこれといった思い入れはありません。本当に答辞と送辞の時間がきつかったということくらいでしょうか。あ、あとは紅白饅頭美味しかったですね。
さてと次回は、25日です。お楽しみに!
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