第64話.妹と妹
俺と華山は妹の現が合流するまでの間、先程のクラゲの話について花を咲かせる。
クラゲってなんであんなに透明なんだ?とか、何本足があるんだろう、とか。話せば話すほど中々に奥が深い生き物だ。
そんな事を数分もしていると、床に敷いてあるカーペットに音を吸収されたような足音がとすとすと聞こえてきた。俺はその音が聞こえた方を振り返る。
「刻兄、帰ってきたよ〜」
いたのは先程連絡のあった現だ。顔を見てみるとどこか楽しそうな雰囲気が抜けきっていない。多分イルカショーを相当楽しんだのだろう。
「どうだった?」
端的にそう現に問うた。もちろん現の方も俺が何について聞いてるのかはすぐにわかったようで、話し始めてくれる。
「すっごく楽しかったよ!イルカが五頭いたんだけどね、一匹一匹がみんな健気で可愛いの!それでいてすごく頭が良くて、驚いちゃった」
「そうか、それは良かったな」
「刻兄も次のやつ見なよ!まだ時間はあるけど、見ないと絶対損だよ!」
現は両手を胸の前でギュッと握りながら俺に力説してくる。
「気が向いたら行くよ」
「そうそう、そうしときなよ」
俺達、鏡坂家兄妹がそんな会話をしていると、俺の後ろにずっと華山は隠れていた。
(現と華山を喋らせてみるかな)
ちょっとしたイタズラ心に火がつき、華山と現の間に会話が発生するようにしむけてみる。
「あ、現」
「なぁに?」
華山が俺の後ろに直ぐに隠れない程度の速度で横移動しながら、現に華山の紹介を始めた。
「いきなりだが、この人が俺の所属してる部の部長さんの華山有理さんだ」
いきなり紹介が始まったためか華山も現もポカーンとしている。その中でもいち早く状況を読み込んだ現が、すぐに口を開く。
「あ、私鏡坂刻の妹の鏡坂現です。お兄ちゃんがいつもお世話になっているそうで、ありがとうございます」
普段の様子からは想像もつかないほど丁寧な自己紹介を終えた現は、なぜかドヤ顔でこちらを見てきた。
そんな現から目を逸らして、俺の後ろにいる華山の方にへと目を向けた。見てみると華山は頬をぽわっと赤く染めて、アワアワと軽くパニック状態に陥っていた。その様子を見た俺は華山のフォローに回る。
「ほら、軽く名前だけ名乗っとけば何とかなるって」
華山の耳元でそうボソッと呟いた。それを聞いた華山は俺の方を向きコクっと頷くと、深く深呼吸をする。
「え、えーと……鏡坂くんと同じ部活で部長をしています、か、華山有理です。よ、よろしく……お願いします」
華山は途切れながらも何とか言い切った。
(よく頑張りました!それと無理させてごめんね?)
褒めと謝罪の言葉を心の中で華山に送ると、現に目を向ける。見てみるとなぜか現は手を口元の辺りで抑える。
「え、現どうしたの?」
俺が現にそう聞くと、華山も現の異変に気付いたようで、心配そうに俺の後ろから見ている。
「刻兄」
「何だよ」
「有理さんってさ……」
「うん?」
華山について何か思うことでもあったのか?
「めっちゃ可愛いのね!」
「えっ!?そそそそそ、そんな事ないですっ!」
現が急にそう言うから、俺は言葉を失い、華山は顔を真っ赤にして手をブンブン振りながら否定しにかかる。
「そういう所だよ!有理さんの可愛い所」
「あうぅ……」
華山は顔を手で完全に覆ってしまった。どうやら相当恥ずかしかったらしい。
「現それ位にしといてやれ。華山がオーバーヒートしちゃうから」
「あはは、ごめんごめん」
現はそう言って軽く謝る。
(この子華山が先輩ってこと分かってるよね?なんか俺とか空宮と接する時みたいなテンションじゃん。いや、敬意さえあれば別にいいんだけど)
少し心配になりながら見守る。
「そうだ!有理さんも一緒に水族館周りましょうよ!」
現は突拍子もなくそんな事を言い出した。
確かに一緒に周れば仲良くなれるかもだけどな。
俺がそんなことを思っていると、華山は顔を覆っていた手をゆっくり外して、潤んだ目を現に向けながら口を開いた。
「いいんですか?」
その華山のセリフを聞いて現はこう言う。
「もちろん!」
第64話終わりましたね。華山と現がついに出会っちゃいました!仲良くなれるんですかねー?まぁそれを決めるのは僕なんですけど。
さてと次回は29日です。お楽しみに!
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