第639話.彼氏さんのハンバーグ
家に帰ると恋人がいる生活というのは非常に素晴らしいものだ。寂しくないのはもちろん、お喋りもできるし、血の繋がった家族とは出来ないイチャイチャだって出来てしまう。
「ただいまー」
キッチンの方に向かいながらそう言う。向こう側からはいい匂いがしてきた。
「ん、おかえり。お疲れ様」
「うん、ただいま。いい匂いだね」
「だろ」
刻の得意料理であるパスタ、ではなく今回はハンバーグを作っているようだ。
「ネットで調べまくって作ってる。蒼の程じゃないけど食べれるものだろうから、楽しみにしといて」
「うん、楽しみにしとく!」
「うん。あ、お風呂湧いてるから先に入ってきな」
「はーい」
早くサッパリとして刻の作ったご飯にありつくのだ。
いつも通りの工程をなんて事ない速度で終わらせていく。体だけは湯船に浸かってしっかりとほぐしておこう。
ところでだが、刻がパスタ以外の料理を作れると言うことを知らなかった人もいるだろう。その通り、刻はパスタ以外には元々作れる料理が無かった。しかし、彼も努力家だ。私の料理の手伝いをしながらコツコツと技術の研鑽を重ねていた。おかげで今のように新しい料理にチャレンジ出来るくらいには実力が上がっている。
努力できる彼のことを誇らしいと思いながら、私はゆらゆらと揺れる湯船から上がった。雫が肌から流れ落ちてポタポタと音を立てる。
✲✲✲
頭からポカポカと湯気を立たせながら私は席に着いた。お風呂をあがった段階でご飯の準備が済んでいたのだ。
「美味しそうだね」
「見た目はひとまずな。あとは味だけ。多分……大丈夫」
ほんの少し心配そうにしながら刻はそう言う。けれど何となくわかる。これは美味しい。人が感じる料理の味の大半は嗅覚に頼っている。その些細な味の変化を感じ取る嗅覚が現段階で太鼓判を押しているのだ。ここから大ハズレということはもうほとんどの可能性として無い。
「大丈夫。刻が作ったなら美味しいに決まってるさ」
「うん、そう願ってる。じゃあ、いただきます」
「いただきます」
ハンバーグをちょうど真ん中で割ってみる。
私でも難しい肉汁の溢れるハンバーグだ。じゅわりと溢れ出て同時にさらに良い香りがたちこめる。そして一口分をお箸で掴み口に運んだ。ジューシーさとボリューミーさの共存。そして刻オリジナルのソースの香り。それが絶妙にマッチする。
「めっちゃ美味しい」
「ほ、本当?」
「うん、やばいくらい美味しい」
「な、なら良かったぁ」
「えへぇ、何これぇ!お箸止まんない!」
あまりに美味しすぎて次から次へと食べてしまう。感想を言うのも最初のこれきりで、最後に食べ切るまで無言で食べ進めてしまった。
「ふへへ、こりゃたまげた。私が作るより美味しいかも」
「いや、それは無いだろ」
「ううん、あるある。これは感動ものだよ」
「そんなにかぁ。でも、蒼に褒められるのは嬉しいな」
にへっと無邪気に笑いながら照れくさそうに一口ハンバーグを食べる。そんな彼氏の様子があまりにもいじらしく可愛らしい。
ふへへ。本当にこの人が私の彼氏でよかった。
第639話終わりましたね。作者はハンバーグが好きでよく高級イタリアンことサイゼリアでハンバーグを二種類頼むのですが、友達からはメイン2つも頼むの?と引かれてます。美味しいからいいよね。
さてと次回は、17日です。お楽しみに!
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