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第62話.海月

「ねぇ刻兄。ちょっといい?」

「んあ?どうした」


 ソファに座っている俺の後ろから声をかけてきた妹である(うつみ)の方を上半身を捻りながら向いた。見ると(うつみ)は指遊びをしながらもじもじとしている。こいつが昔から何か俺に頼む時に出る癖だ。


「えっとね、お願いがあるんだけど」

「何だ?言ってみろ」


 (うつみ)の方に向き直り話を聞く体勢を作ると、(うつみ)は意を決したようにこちらを見据える。


「水族館に着いてきて欲しいんだけど」

「友達と行けよ」


 (うつみ)の言葉に思わず反射的にそう応えた。だが(うつみ)からしたらあまりその応えがお気に召さなかったらしく頬を膨らませる。


「それが出来たら頼んでないよ!」

「何で出来ないんだ?」


 俺は当然の疑問としてそう聞く。


「だって……なんか子供っぽいって笑われそうで恥ずかしいし……」


 (うつみ)はまた、俺に話しかけてきた時のようにもじもじし始めた。


(我が妹ながら面倒臭い性格だこと)


「はぁ……、分かった。着いて行ってやるよ」

「ほんと?」

「あぁ。にしても何で急に水族館に行きたいなんて言い出したんだ?」


 そう聞くと(うつみ)はキョトンとしながら応えてくれた。


「あれ、刻兄もしかして知らない?私が水族館好きって事」


 はい知りません。初耳です。

 自分の妹の事ですら知らない事があるという事実に驚きながらも、それを誤魔化すためにひたすら微笑んだ。



✲✲✲



「わぁー!大っきい水槽!」


 家の最寄り駅から電車に乗り須磨海浜公園駅で降りて、須磨海浜水族園に来た。

 館内に入ってすぐの所には、俺達を迎入れるかのように大きな水槽がある。


「サメだ!刻兄サメがいるよ!」


 見ての通り(うつみ)はテンション爆上げで、先程からわーわーと騒いでいた。

 もう少し静かにしようか?周りの人めっちゃ見てるからね。

俺は目で静かにしろと頑張って伝えようとするが、(うつみ)は気付かないどころか、察そうともしない。


(ちょっと泣きそう)


「はいはい、そーだな」


 適当に対処して大水槽の前に立つ(うつみ)の元に歩く。水槽の中にはもちろんサメ以外にも色々な魚がいた。エイだったり、クエだったり。

 俺は泳いでいる魚と、その説明が書いているプレートとを見比べながら、自分なりに楽しんでいた。


「ねぇ、刻兄はどのお魚さんが好き?」


 (うつみ)にそう聞かれたので腕を組みながら考える。


「食べるんならブリが一番好きだな。鑑賞って話しなら、そうだな。あ、あれだあれ、ニモに出てくるオレンジのやつ」


 そう言うと(うつみ)はビシッと俺に指を向けてドヤ顔を浮かべながら口を開いた。


「刻兄、それってクマノミでしょ!」

「あー、そうそれ!」

「「いぇーい」」


 俺と(うつみ)は馬鹿みたいにハイタッチをして喜ぶ。本当に馬鹿みたいに。


(学力的な成績は馬鹿じゃないけどな?どっちも偏差値60超えてるからな?なんなら(うつみ)に関しては実は70超えてる高校だからな?)


 内心で言い訳しながら、次の水槽に向かって歩き始める。

 次の水槽の場所に着いてイワシの大群を眺めていると急に(うつみ)が口を開いた。


「ねぇねぇ、刻兄」


 (うつみ)はそう言いながら、クイクイっと俺の袖を引いてくる。


「どうした?」


 俺は(うつみ)にそう聞いた。(うつみ)はどこか焦っているようで、館内に入る時についでに取っておいたパンフレットを開いていた。


「えっとねえっとね、イルカショーがもうすぐ始まるみたいなの!」

「はあ。それで?」

「だから、見に行きたいんだけど。いいかな?」


 (うつみ)は下から目線で目を少し潤ませながら、行ってきてもいい?と、訴えかけてきた。


「行ってきても別にいいぞ?俺はここら辺うろついとくからさ」


 そう言うと、(うつみ)は顔をパァーっと明るくさせた。


「うん!じゃあ20分もあれば戻ってこられるだろうから、ここら辺で待っててね!」


 (うつみ)はそう言うと、タタっとイルカショーを行うところ目指して駆けていった。俺は転けないか心配になりながらも、(うつみ)が見えなくなるまで見守る。

 はぁ……認めたくはないけど俺も中々重度のシスコンなのかな。

 (うつみ)の姿が見えなくなるとまた歩き始めた。

少し歩くと見えてきたのはクラゲが展示されている場所。水槽の中でぷかぷかと泳いでいて、なんだか見ていて癒される。

 そんな感じでクラゲを見ていると、ある場所で視線が止まった。

 水槽に手を当てて熱心に見ているその人は、長い黒髪にすらっとした手足。光の反射で銀色がかる特徴のある髪の毛。

 そう、華山有理だ。

 水槽の中を熱心に見つめている華山のその様子を見つけると、気付いたら思わず声をかけていた。


「よぉ、華山」

「ひゃいっ!?」


 トンっと肩を叩いたのに驚いたのか、華山は高めの声を漏らした。


「あ、あぁ、鏡坂君ですか。急だったので驚いちゃいました」

「あぁ、ごめんね急に話しかけちゃって」

「いえ、大丈夫ですよ」


 華山はニコッと微笑んで俺にそう言う。

 というかなぜ華山はここにいるんだろ?

 気になった俺は華山に聞いた。


「なぁ華山」

「はい?」

「今日は何しに来てたんだ?」


 そう聞くと、華山は館内の暗い中でも薄らとわかる程度に顔を赤らめながら応えてくれた。


「私クラゲが好きなんです。家でも飼ってるんですけど、それ以外のも見てみたくて」

「へー」


(クラゲって飼えるんだ。知らなかった)


 そんな事を思いながらも、華山が見ていたクラゲの水槽に近づいた。


「へー、こいつミズクラゲって言うんだな。可愛いな」

「ですよね!」

「お、おう」


 そう言うと華山が珍しく食い気味でそう言った。

 華山さん近いですわよ?顔がすぐ近くにありますわよ?

 俺はかなり緊張してしまう。(うつみ)ちゃん早く戻っておいでー。


第62話終わりましたね。今回出てきた水族館には実際に足を運んできました。久しぶりに行きましたけど、いいですね。クラゲのコーナーは幻想的でいいですねぇ。

さてと次回は25日です。お楽しみに!

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