第61話.寝顔
目を閉じると目の前の世界は当たり前だが真っ暗になった。まぶたの裏には今日見た花火の景色が浮かび上がってくる。
鳴り響く轟音。煌めきそして儚く散っていく光の華。どれもこれも過去の記憶なのに、今現在全く同じようにそれを見ているかのような錯覚に陥った。
しばらく目を閉じ続けていれば、花火大会で歩き回ったときに溜まった疲れがどっと押し寄せてくる。先程も空宮の膝の上で仮眠を少し取ったが、それでも俺の体は完全ではない。
体力を回復させるべく俺は眠りに落ちた。
✲✲✲
次に目を覚ましたのはもう外が明るくなっていた時間帯だった。すぐ近くではすーすーと柔らかい寝息がまだ響いている。
その寝息の方に耳を傾けながら、枕元にあらかじめ置いておいたスマホの電源をつけた。
「あれ、まだ4時半……」
一度は二度寝しようかとも考えたが脳が完全に覚醒してしまってそうもいかない。しかもここは空宮の家なわけだ。
ひとまず体を起こすと壁にもたれた。
そして、俺はそのまま流れる様にイヤホンを耳にさしてラジオを聴き始める。
『今日は朝からいいお天気ですね!さてじゃあメッセージでも読んでいきましょうか』
イヤホンからはラジオパーソナリティーの明るくテンション高めの声が聞こえてきた。
『えー、ラジオネームお餅よりも団子派さんから頂きました。ありがとうございます。えーと、今日は朝から晴れていてとても気分がいいですね。私は早く起きたついでに外に出て散歩をしながら聴いています。玲翔さんは今日は何時くらいに起きられましたか?という内容ですね。そうですね、僕はこの番組が朝の4時に始まるんで、1時間前に現場入りするために、遅くても2時にはもう起きて準備始めてますね』
(この人起きるの本当に早いな。早起きって言うかその時間って夜更かししてさあ寝ようかな、ってときくらいの時間だよな?)
1人パーソナリティーの話を聴きながらボーっとする。
『さぁ、じゃあお餅よりも団子派さんのリクエストに応えましょうかね。じゃあChatnoirでbitterbitter』
パーソナリティーがバンド名と楽曲名を紹介すると、曲のイントロが流れ始める。
確かこのバンドは最近ドラマか映画か何かの主題歌をやったかで、今急上昇中とか空宮がこの前言ってたな。
曲を聴いていると、だいぶテンション高めの曲だという事が分かってきた。曲調としてはいわゆるロック。ライブとかで弾けばお客さんとバンドマンが一体になる系のやつだ。ドラムが刻むリズムもテンションを上げていきやすい。
(朝からこの曲って、お餅よりも団子派さんも中々ハードな方なのね)
「んふぅ……」
ラジオを聴いていると、すぐ目の前で寝ていた空宮がゴロンと寝返りを打つ。先程まで角度的に見えていなかった空宮の顔が、寝返りを打ったことによってハッキリと見えるようになった。
空宮が浮かべる寝顔は年相応の顔付きよりも幾分か幼い。だが、可愛いという分類に十分入るだけあってまつ毛や鼻の筋、顔の形や大きさ等が異常なくらいに恵まれていることも同時に分かる。
そんな空宮の様子を何となく眺めていると、先程まで閉じられていた空宮の目が、薄らと涙で濡らしながら開いた。
「ふあぁ……あれ?もう朝なの」
空宮は完全に俺がいるのを忘れた様子で、そうボソッと独り言を呟いた。
「花火もう一回刻と見たいなぁ。あ、でも刻の事だから次は面倒くさがって来なさそう」
空宮は誰かと喋っているのではないかと疑うくらいに、独り言をつらつらと並べていく。
「まぁ、面倒くさがっても連れて行くけどね」
空宮はそう言うと「ふふっ」と一人で静かに笑い始めた。
(この子、俺が面倒くさがっても強制的に連れて行くつもりなのね。ま、いいんだけどさ)
そんな風に考えながら、耳にさしていたイヤホンを外して空宮に話しかけた。
「おはよう」
「……ッ!?!?」
そう言うと空宮はバッとこちらを向き、言葉にならないくらいに驚いたようだ。言葉は文字通り失い、先程から餌を食べている金魚のように口をぱくぱくさせている。
「よう、元気か?」
「げ、元気だけど」
「そうか、それなら良かった」
空宮のそんな様子を特に気にすることなくさらに話しかける。だが空宮はイマイチ状況を把握しきれていないようで、頭の上にクエスチョンマークを五個ほど浮かべていた。
「どうかしたか?」
「えっ、いや、どうしたもこうしたもなんで刻が私の家にいるの」
「いや、昨日のお前が泊まってくかって誘ってきたたんじゃねえかよ」
そう言うと空宮は今の状況と俺の発言内容が全て繋がったらしく、納得したような表情を浮かべていた。そしてそれと同時に少しだけ顔も赤らめ、両手で顔を隠しながらなにかブツブツ言い始めた。
「あれ、さっき私恥ずかしい事サラッと言わなかった!?刻ともう一回花火行きたいって、言わなかった!?言ったよね。多分言った。私の事だから多分間違いない。それに、多分刻私の寝顔見たよぉ……。恥ずかしい恥ずかしい、どんな顔して寝てたか分からないから余計に恥ずかしぃ」
しばらくの間ブツブツと独り言を言っている空宮の様子を見守っていると、空宮は独り言をやめてこちらを向いた。
「刻ランニング行こっか」
そう突然言われ、俺は女の子の力とは思えないパワーで立ち上がらせられる。
(昨日の夜おばさんに言われたからかな?)
1人で勝手に納得すると精一杯の抵抗を試みるが空宮がそうはさせてくれない。
「俺は行きたくな……」
「反論は聞きません。それじゃあ出発!」
空宮は何かを隠し通そうとするかのように、右手で拳を作って元気よく高らかに上げた。
第61話終わりましたね。皆さんはラジオって聞きますか?僕はスマホとかパソコンで使えるradikoを使って聞いてますね。いいですよラジオ。小説家になろうのコーナーがある、FM802は僕普通に聞いてますしね。802パレット、通称8パレ。豊田穂乃果さんの優しい声ぜひ聞いてみてください。
さてと次回は23日です。お楽しみに!
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