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第59話.お布団

「そ、そんなことよりさ!刻お腹減ってない?」


 空宮はすっかり固まってしまった空気を溶かすべく喋り始める。空宮のその様子は必死そのもので、少し申し訳ない。


「あ、俺さっきの花火大会で食べたご飯で結構腹いっぱいだわ」


 正直にそう言うと空宮は少ししょぼんとしてしまった。


「そ、そうだよね。私もよくよく考えたらお腹一杯だった」

「そうだろうな。男の俺で腹一杯なんだから、それとほぼ同じ量を食べた空宮も腹一杯だろうよ」

「あら、そんなに食べたの?」


 会話をすぐ隣で聞いていたおばさんが、そう聞いてきた。


「結構食べたよ」


 そう言うとおばさんは何食べたの?と目で訴えかけてくる。


「えーと、俺達が食べたのはたこ焼きとりんご飴、ぶどう飴、あとはチョコバナナに焼きそばと色々です」

「確かにいっぱい食べたわね」


 おばさんは腕を組みうんうんと頷くと、少し鋭くした目で空宮の方を見た。


「え、何お母さん……」

「蒼?」

「はいっ!?」


 おばさんから発せられた声は目と同じくらいに鋭くて、それに驚いた空宮はビシッと背筋を伸ばす。


「そんなに食べたらね……」


 空宮に近付き急に空宮の脇腹をつついた。


「きゃっ!?」

「太っちゃうわよ?」


 おばさんは女子にとって、最もきつい一言を空宮にぶつける。


「べ、別に太らないもん!私太らない体質だもん!」


 空宮は子供みたいにそう主張しだした。


「蒼?現実逃避はダメよ?あなた昨日お風呂上がりに体重計乗った後に、「うえっ!?体重増えてるっ!?」って言ってたじゃない」

「うぐっ……」


 どうやら痛いところを突かれたようで、空宮は苦い顔をした。


「確かにね、ふくよかな女の子が好きな男の人もいるわよ?だけど、ほら、刻くんはどういう体型の子が好き?」


 何故か急におばさんに話題を振られる。

 このタイミングでどう答えるのが正解なのかと、内心葛藤しつつも、なんとか答えを絞った。


「俺の好みですけど、ふくよかよりかはスラッとしてるほうがいいですかね。あ、別に痩せすぎがいいって訳でもありませんが。まぁ結局は普通の体型が一番いいです」

「ほら蒼?こう刻くんは言ってますけど、それでも太らない体質って言い張る?」

「むむむ……」


 おばさんがそう言うと空宮は悔しそうな顔をしながら、高らかに宣言した。


「分かった!明日の朝からランニング始める!刻一緒に走るよ!」

「え!?俺も!?」

「もちろん!」


 あれよあれよという間に俺も巻き込まれる形になっていた。予想外の展開なんですけど。



✲✲✲



「それじゃあ刻くんはこの布団使ってね〜」


 俺はおばさんにそう言われて、和室に案内された。

 昔は空宮の家に遊びに来たらいっつもここで遊んでたな。

 俺は昔の記憶に浸りながら部屋に入る。


「ありがとうございます」

「いえいえ。あ、押し入れに布団もう一組あるからねー」


 おばさんは最後によく分からないことを言っていくと、そのまま去っていく。


(なんで布団がもう一組?)


 疑問に思いながらも布団の上に座った。そのまま流れる様にスマホを取り出し弄っていると、部屋の外から声が聞こえる。


「え、え!?お母さん何!?」

「はいはい、こうでもしないと何も進まないからね〜」

「何のこと!?」


 空宮のその言葉が聞こえた時、俺の目の前にいきなり空宮の顔が現れた。どうやらおばさんに背中を押されたらしい空宮が、足をひっかけて俺に飛び込む形でこうなっているらしい。


「ちょちょちょちょ!?」


 冷静に分析した後になかなか危険な状況に気付き、空宮を両手で受け止めた。


「はうっ……」

「よ、っと」


 空宮が呻き声をあげるとおばさんの方から声が聞こえる。


「あとはごゆっくりね〜」


 その後には襖を閉める音が聞こえる。


「大丈夫か?」


 そう空宮に聞いた。するとすぐに空宮も返事を返してくれる。


「うーん……大丈夫だよ。はっ!そんな事より刻も大丈夫?」


 そう俺に聞くと頭を小さい子供に「痛いの痛いの飛んで行けー」とする感じで撫でてきた。


「別にそんな事しなくても大丈夫だ」

「そう?」


 空宮は首をコテンと傾けながら心配そうに俺の顔を見つめてくる。その様子を見ていると、俺の耳は異常なくらい熱い熱を帯びた。


(こいつは天然なのか何なのか……)


「ああ、もう一旦離れろ」


 俺は空宮にそう言う。先程から空宮が俺に馬乗りする形だったのだ。いい加減足も痺れたし、何より恥ずかしい。それは空宮も分かったらしく、顔を赤くする。


「ご、ごめん」

「いや別にいいよ。お前に怪我が無いのが一番だ」


 俺がそう言うと空宮は勢いよくこちらを向いた。


「それを言い出したら、私も刻に怪我が無いのが一番なの!」

「いや、そんなムキにならんくても」

「いや、ムキにもなるよ!刻にそんな事言われたら」

「はいはい、分かりました」


 そう適当にあしらい、この話題を断ち切った。

 この話続けたら、どっちも最後には顔真っ赤にしてオーバーヒートしそうだし。早めにやめとこう。

 そんな事を思いながらも、ふと思い出す。


「なぁ、なんかさっきおばさんに布団がもう一組あるって言われたんだけど、どういうことなんだ?」


 聞けば空宮は顔をハッとさせた。


「そうそう、それについては私も気になってたの。なんか部屋のベッドが何故か使えないようになってるし、どうしようーって思ってたら、お母さんにここに連れてこられたわけ」

「ああ、つまりあれか。そのもう一組の布団を使って寝ろよって事な」

「なるほど!」


 空宮は合点がいったようで、すぐに押し入れを開く。

 そしてすぐに布団を取り出すのかと思えば、空宮から話しかけられた。


「ねぇ刻」

「何」

「布団の上に紙があってさ、それにこの布団は和室でしか使ってはいけません!って書いてたの」

「嘘だろ」


 俺達の間には気恥しい空気が流れ始める。


第59話終わりましたね。僕は布団ではなくベッドで寝てるんですけど、たまに使う布団ってなんかいいですよね。

さてと次回は19日です。お楽しみに!

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