第57話.喧騒
一瞬だけ空宮視点です。
空が大輪の大花火によって色とりどりに染められていく。
赤や青、緑、紫に橙、黄たまに白銀。空は花火に照らされて、夜が一気に昼になったのかと疑うくらいに明るい。
私は隣にいる刻の方をちらっと気付かれないように見た。
刻の顔は花火の光で先程よりもよく見えており、刻の瞳には反射した花火が映っている。
ただ君の顔を見つめてるだけなのに、見つめ返されてるわけでもないのに、何でこうも心臓が激しく脈を打つのだろう。激しく脈を打つせいで、血液が心臓から一気に全身に周り、顔が熱くなるのを感じる。
どれもこれも夏の暑さと、花火の轟音のせい。私はいつも通り。そう、いつも通り。
私の気持ちはいつも通り、君に向いている。
✲✲✲
花火の轟音が辺りに響き渡る。その轟音は俺の心臓にも響き、自分の鼓動なのかどうか分からなくなってしまう。
空に浮かぶ花火はキラキラと輝き、目の前にある海にも反射して、二つの空が出来上がった。
「凄いな」
ボソッと花火の音に掻き消されるほどの声でそう言う。
周りにいる人々はスマホを構えて写真を撮ったりしているが、俺はそうせずにその景色を目に焼きつける。全く別の場所で違う花火を見ても、今日のこの時を思い出せるように。
花火は段々とラストスパートに近付いてきた。
どんどん花火のサイズが大きくなっていく。数も次第に減っていき、一発一発に人の目が注目するようになってくる。
「もう少しで終わるな」
隣にいる空宮に俺はそう言う。
空宮はすぐにこちらに顔を向けると、少し寂しそうな顔をしながら口を開いた。
「そうだね。もうちょっと見てたかったけど」
「そうだな。まぁでも、また来年もあるだろうしな。その時にまた来ればいい」
「その時は現ちゃんじゃなくて、刻が誘ってくれるの?」
「んー、覚えてたらな」
「そっか。一応期待しとくね」
そんな会話をしながら、最後の一発が打ち上がるのを待つ。
か細く弱々しい光の線が空のさらに上、宇宙の方を目指して飛んでいく。だけどそのか細い光の線は決して空を越えることはなく、雲よりも少し上のところで力尽きてしまった。だが光は最後の力を振り絞るがごとく、消えたその場で大きく、ただひたすらに大きく、光の華を咲かせた。
その光は見るものを喜ばせ、あるいは感動させた。だが反対に、その大きく華やかに咲いたそれが数秒として消えていく様を見て、寂しさをも抱く人間をも出現させた。
「終わったね」
空宮はそこに、確かについ先程そこにまであった花火を眺めた続けたまま俺にそう言ってくる。その声は先程と同様に、寂しさを孕んだものだ。
「そうだな」
簡潔にそう返す。
こういう時にどう返すのが一番いいのかあまりよくわからない。人の感受性は人それぞれだ。10人いれば10人全員違う。だからその感受性によって出てきた感情に対して、何かを俺に言えることはほとんどない。
「帰ろっか」
「そうだな」
そんなやり取りだけを交わすと後ろを向き、座るために敷いていたダンボールを回収して歩き始めた。
周りにいる人は思い思いに歩いている。
その人の流れに逆らいながら駅に向かって歩き続ける。
駅に着くと行きよりは減ったものの、俺達と同じく多くの花火を見た人がいる。
「やっぱり……人、多いね」
「そう……だな」
窮屈な人混みを避けながらどんどん進んでいく。
なんとか電車に乗ると、奇跡的に空いていた席に座り一息ついた。
「ふぅ」
「お疲れだな」
「お疲れだよ〜。人が想像の数倍いたからさ、楽しかったけどちょっと目が回っちゃった」
「あはは」と笑いながら空宮はそう言う。
少し心配しつつも、俺も疲れているので空宮に習って目を閉じる。
電車の音や人々の話し声は、目を閉じることによって嘘みたいに気にならなくなった。
これくらいなら電車に乗ってる僅かな時間でも十分休める。
俺と空宮はほとんど寝ている状態と何ら変わらないまま、自分たちの降りる駅まで乗っていた。
人々の喧騒も、光も、自然も、車の音も目を閉じれば俺の世界からは遮断される。
第57話終わりましたね。最後刻と空宮が目を閉じてましたけど、僕がそれをするとすぐに寝ます。本当に一瞬で寝ます。疲れてるのかな。
さてと次回は15日です。お楽しみに!
是非ともブックマークと☆もお願いしますね!