第552話.卵割りの技術
バイトから帰る道中、最近知り合った人に声を掛けられた。
「やぁ、蒼ちゃん」
「あ、彩芽さん。こんばんは」
ぺこっと頭を下げて挨拶をすると彩芽さんは満足気に笑いながら私の隣に立つ。
「いや〜、バイトの帰りに蒼ちゃんと会えるなんてラッキーなこともあるもんだねぇ」
「そんなにラッキーですか?」
「そりゃそうだよ!鏡坂くんに毎回蒼ちゃんの写真を見せてもらうわけにもいかないし、自宅に押しかけちゃうわけにも行かないしねぇ」
なんで彩芽さんはここまで私のことを気に入っているのだろうかと思ってしまうが、気に入られること自体に悪い気分はしない。
「私の写真くらい刻から貰ってもらってもいいですよ?それで満足なら別に構いませんし」
「お、おぉ?いいの?」
「はい。私は別に気にしませんよ?」
「ふーん、へー。そっかぁ〜……ふへへへ」
何だか気味悪げな笑い声が聞こえてきた気がするが気にしないようにしようか。
「あ、それなら私の写真も上げちゃーう」
「あ、いや私は全然大丈夫ですよ?彩芽さんに無理させるわけにもいかないし」
「え、あ、いやでもほら、対価?的なあれがあるじゃん?」
「あぁ、私は気にしないので大丈夫ですよ?」
「そ、そっかぁ……」
なぜかほんのりしょぼんと萎む彩芽さんを横目に私達は近付いてきた家の付近で別れる。
「鏡坂くんにもよろしくねぇ」
「はい。彩芽さんおやすみなさい」
「うん、おやすみ〜」
自宅に帰ると刻が迎えてくれる。最近ではパスタ以外の料理にも積極的に挑戦し始めていて、大きな成長としては卵をちゃんと割ることが出来るようになったようだ。過去に多大な犠牲を払った刻としては非常に嬉しかったようで、初めて成功した時は小さな子供のようにはしゃいでいた。
「今日はオムライスに挑戦してみたぞ!」
まぁ、成功してからというものの、卵を使う料理の頻度がめっきり上がってしまったけれど。最近はなかなかパスタの日が来なくてほんの少し寂しかったりする。
✲✲✲
スキンケアを終えて部屋に戻るとまったりモードの刻がソファに横たわっている。お風呂でぬくぬくと温まったのか眠気が襲っているようだ。私では刻を無理やり寝室に運べないし、タオルケットでもかけてあげようか、なんて思って近付くと刻の手が私の体を引き寄せた。
「ひゃっ……」
刻の隣に倒れるようにしてソファに乗り上げる。
ギュッと抱きしめられて身動きが取れない。
「と、刻?起きてる?」
「……寝てる」
「寝てる子は返事をしませーん」
「……する時はする」
「んもぉ……今日は刻が甘えん坊モードかぁ」
しょうがないなぁと思いながら刻を頑張って起こして手を繋ぐ。
「ほら、ベッド行きますよー」
「ん」
大人しく着いてきてくれる刻を後ろに私達は寝室に向かうのだった。
第552話終わりましたね。親知らずを抜いた作者、顔の腫れが急速に引いてきました。抜いた次の日はあなた誰?というレベルだったのですが、結構短時間で引いてくれたのは嬉しい誤算です!
さてと次回は、25日です。お楽しみに!
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