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第54話.屋台

 電車を降り駅を出て花火大会が行われる会場まで、俺と空宮は歩く。だが、周りにいる人も考えは同じようで、俺達は思うように進めない。


「離れるなよ」

「うん」


 そう言うと空宮は俺から離れまいと、俺の着物の裾をしっかりキュッと握った。


(それにしても本当に人が多い。あちらこちらで子供の泣き声聞こえるし、迷子も多発してるのか?)


「ねぇ刻」

「ん、どうかしたか?」


 話してきた空宮の方に耳を傾けながら歩き続ける。


「刻は最後に花火見たのっていつ?」

「最後か……。こういう祭りとかはいつが最後だったかは覚えてないけど、年が明けた時に打ち上がる花火なら見たのが最後だな」

「なるほど」

「あぁ。そういう空宮は最後に見たのはいつなんだ?」


 そう聞くと空宮は少し黙る。多分最後に見た時を思い出している最中なのだろう。

 しばらく待つと空宮は思い出したようで、最後に見た花火を教えてくれた。


「私が最後に見た花火はね、新年明けましておめでとう花火だよ!」

「ん?」


 それってつまりはあれだよな。


「俺が見たのと同じって事か?」

「そういう事。お揃いだね!」

「お揃いって……」


 空宮につっこもうとしたが、空宮がひどく嬉しそうだったのでつっこむ気も失せてしまう。


(何でこいつはそんなどうでもいいような共通点を、こんなにも嬉しそうにするんだろう)


 疑問に思いながらもまた前を向き歩き始める。


「わととっ」

「うおっ」


 急に訪れた後ろからの衝撃に驚き俺は思わず声を上げてしまった。どうやら周りにいた人とぶつかったのだろう。


「大丈夫か?」


 空宮にそう聞くと、空宮は先程よりも強い力で着物の裾を握ってきた。


「大丈夫……だけど、刻の後ろからついて行くだけだと、またぶつかりそうだから隣にいてもいいかな?」


 空宮は周りの音にかき消されそうなくらいの声で俺にそう聞いてくる。


「別にいいけど」

「じゃあ隣に行くね」


 空宮はそう言うと、タタっと人と人との間をぬって俺の隣に立ち、腕を組んできた。

 控えめだがここにあると主張する柔らかいものが、先程から俺の腕に当たって色々と、いや、主に理性がやばい。


「あの、当たってるんですけど……」

「へぁッ!?」


 俺がそう言うと空宮は顔を真っ赤にしてこちら振り向く。

 そしてボソッと空宮は呟く。


「刻のエッチ……」

「お、お前、エッチって当たったものは仕方がないかと……。というかそっちが俺に引っ付いてきたんじゃないかよ」

「だって、そっちの方が刻から離れなくて済むし……」

「そうかもしれないけどさ……」


 俺達はどちらも顔を赤くして目を合わせれない。



✲✲✲



「わぁー!刻見えてきたよ!」


 空宮は先程のエッチだのなんだのと言うやり取りを、完全に忘れたかのようにはしゃぐ。


「そうだな、いっぱいある」


 俺達の目と鼻の先にあるのは、花火大会の会場にあるたくさんの屋台。オレンジの電灯が煌びやかに輝いている。


「ほら、刻早く行こっ!」


 隣にいる空宮は俺の手を引いて走り出す。


 屋台の近くにいる人達はみんな、笑顔でここを精一杯楽しんでいるのがうかがえた。かくいう俺達もその1人なのだが。


「ねぇ刻何か食べたいものある?」


 空宮は俺の顔を上目遣い気味で見ながらそう聞いてくる。

 何か食いたいものか。特に無いけれども。


「空宮に食べたいものがあるなら、空宮が好きに選んでいいぞ」

「そお?」

「うん。別に俺は食べたいものがあるわけじゃないしな」

「そっか、じゃーあ」


 空宮は周りの屋台を指さしながら何にしようか選んでいる。

 周りには食べ物系の屋台はもちろんのこと、射的や金魚すくいなんかもある。


(花火大会に金魚すくい?何であるんだろ。夏祭りでもあるまいし)


 俺は疑問に思いながらも空宮の方を向き直す。


「よしっ、決めた。あれにしようかな」

「どれどれ」


 俺は空宮が指さす方向を向く。

 橙色の電灯に照らされて透き通った飴から、中にあるりんごとやぶどうから甘い香りが漂ってくる。そうりんご飴だ。


「りんご飴か」

「そうだよ!甘くて美味しいんだから!」

「知ってるよ。俺も食べたことぐらいはあるし、夏祭りに行ったら空宮いつも食べてたろ」

「あはは、そうだったね」


 空宮はひとしきり笑い終えた後、また俺の手を引いて屋台に近づいて行った。


「おじちゃんりんご飴二つくださいな〜」


 空宮は上機嫌気味に店主のおじちゃんにそう言った。


「はいよぉー、300円ね」

「俺が出すわ」


 俺はそう言うと巾着袋から財布を取り出し、300円を屋台のおじちゃんに渡す。俺が渡すと引替えにりんご飴をおじちゃんが空宮に渡した。


「はいよ、お嬢ちゃん」

「ありがと〜」


 空宮は嬉しそうに笑うと、子供みたいに飴を光にかざしたりして反射を楽しんだりしてる。

 空宮の方に近づこうとすると店主のおじちゃんから声をまたかけられた。


「おい、兄ちゃん」

「はい?」

「これ、可愛い彼女さんへのサービスだ。2人で食べな」


 おじちゃんはそう言うと、りんご飴と一緒に並んでいたぶどう飴を二つくれる。


「ありがとうございます。それと貰っておいてなんですけど、あいつ彼女じゃないんですが」

「またまた、照れやがってな。そういう事にしといてやるから、ほらさっさと行きな」


 おじちゃんはそう言うと俺を送り出す。

 彼女じゃないんだけどなぁ。

 俺は空宮の方に歩いて行き、貰った飴を渡した。


「はい、これ。おじちゃんからのサービスだとさ」

「へー、気前いいね、あのおじちゃん!」

「そうだな」


 空宮の言葉に頷きながら、先程店主から言われた事は言わないようにする。

 口にすれば穴に入りたくなりそうだからな。


第54話終わりましたね。りんご飴美味しいですよね。だけど僕はぶどう飴派です!なぜかって?理由は特にないです!

さてと次回は9日です。お楽しみに!

是非ともブックマークと☆もお願いしますね!

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