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第53話.浴衣

 朝早く起きてしまった俺は、特にすることもないので財布とスマホを持ち朝の散歩に出かける準備をする。

 この季節は昼頃はとてつもなく暑いが、朝の早い時間帯はまだマシだ。目覚ましには丁度いいだろう。

 俺はそう思って玄関を出た。

 夏は冬と違って日の出の時間が早いため、家を出た頃にはとても明るかった。ほどよくポカポカしており非常に過ごしやすい。

 テクテクと歩いていくと小さな公園が見えてくる。

 昔よくここで空宮と凛と遊んだ記憶がある。

 あの頃はこの公園がとても大きく見えていたのに、今見てみるとこんなにも小さかったんだな。いや、正確にはこの公園が小さいんじゃなくて、俺達が大きくなったのか。

 公園の前にある自販機で缶コーヒーを買うと公園のブランコに座る。ゆらゆらと揺れながらコーヒーを飲む。カフェインを含んでいっているはずなのに、眠気に襲われていくこの矛盾を少し楽しみながら、俺は空を見上げて目を瞑った。


「あれ?刻じゃん。どうしたの?」


 目を閉じていると後ろからそう言ってくる声が聞こえる。

 後ろを振り向くと、そこにはゆるっとした格好の空宮がいた。


「よお」

「よお、じゃなくて、おはようでしょ?」


 空宮はそう言って俺の隣にあるもう一つのブランコに座った。


「で、何してたの?失恋?」


 空宮は俺の方を笑いながら見てそう聞いてきた。


「失恋してないし、まずなんで最初にそれが出てくるんだよ」

「えー?だってなんか失恋した人ってこんな感じになりそうじゃない?」

「いや、人によるだろ」


(この子は一体何を言い出すのやら。俺の想像の180度違う事を言ってくるから、余計に驚く。普通失恋した?とか聞かないだろ)


 そう思いつつも、空宮との会話を楽しんだ。


「そう言えばさ、今日の花火大会楽しみだね!」


 空宮は急に話の話題を変えて来たかと思えば、楽しそうな笑顔で俺にそう話してくる。


「そうだな」

「でしょでしょ!浴衣着るの楽しみだな〜。すごく可愛い柄なんだよ!楽しみにしといてね!」


 空宮は可愛らしい笑顔でそう言った。


「あぁ、そうしとくよ」

「期待して損はないよ!」


 空宮の事だ。多分想像以上に似合った浴衣を着てくるのだろう。



✲✲✲



 時刻は夕方の5時。

 浴衣を着て祭りに行く準備を完了させる。俺は浴衣と似た色と柄の巾着袋に財布とスマホを入れると、家の外に出た。

 家のすぐ前には空宮が立って待っている。


「あ、刻が来たー」


 こちらの存在に気付くと空宮はすぐにこちらに手を振ってくれる。

 空宮が着ている浴衣は白を基調とし、そこに朝顔をあしらったものだ。元々明るい色の浴衣が、性格の明るい空宮が着ることによってより一層映えて見える。


「ねぇ刻、これ可愛いでしょ〜」


 空宮は浴衣をヒラヒラさせながら俺にそう言った。


「そうだな。似合ってる」

「んふふ〜」


 そう言うと空宮は分かりやすく上機嫌になった。


「あれ、そう言えば(うつみ)ちゃんは?」


 空宮はふと思い出したかのように俺にそう聞いてくる。

 (うつみ)ねぇ。あの子ったら本当に……。


「えーとだな。(うつみ)のやつは、友達に花火誘われたかなんだかで、そっち行くから二人2で楽しんで来いとだけ言われた」

「ふ、2人っ!?」


 そう言った事に大変驚いた様子の空宮は、少し顔を朱に染めて俯く。


「2人か……」


 空宮は何かボソッとだけ呟いたかと思うと、すぐにこちらを向き手を引いてくる。


「2人になっちゃったものは仕方がないよ!ほら刻行こっ!」

「まぁ、そうだな」


 そうとだけ言うと、空宮の横に立ち駅の方に向かって歩き始めた。合宿に行った時と同じように。

 駅に着き電車で数駅進むと次第に浴衣を着た男女が段々と増えてきた。多分この人たちも同じ花火大会に行くのだろう。

 俺と空宮は色んな人に押されながらも、何とか立とうと必死になる。


「思ってたよりも人が多いな」

「う、うん……。ちょっとキツイくらい」


 空宮が言うように確かにキツイ。俺はまだ男でそれなりに筋肉もあるからまだ耐えれるが、空宮はそうもいかない。身長が高い訳でもない空宮は、先程から色んな人に押されて、俺にしがみつかざるをえなくなっている。


「大丈夫か?キツかったら一回次の駅で降りて、もう少し人が減った時に乗っても俺はいいけど」


 俺が空宮にそう聞くと、空宮は頑張って笑顔を浮かべた。


「大丈夫。これの次電車だと、いい場所で花火見れないでしよ?だからちょっとくらいは我慢するよ」

「そうか?」

「うん。その代わりちょっとだけ、ちょっとだけ刻に掴まらせて貰ってもいい?」

「あぁ、別にいいぞ」

「ありがと」


 首肯すると、空宮は先ほどよりもしっかりと俺に掴まる。

 掴まれて分かる。あぁ、空宮は女の子なんだと。昔から俺によくちょっかいをかけてきてたから、そこまで力の差というものを感じてはこなかったが、今では分かる。この必死に俺にしがみつこうとしている、その細い腕からよく。


「きゃっ!?」


 電車が次の駅に近付いた時にブレーキをかけ始めたため、空宮と俺は人混みに押された。そして空宮は俺に抱きつくような形になる。


「ご、ごめん」


 空宮の顔は真っ赤に染まり今にも湯気が出そうだ。


「大丈夫だ。それよりも怪我とかないか?」

「うん、そっちの方は大丈夫」

「そうか、それなら良かった」


 お互いに何も無いことを確認すると、また体勢を整える。

 花火大会の会場までもう少し。


第53話終わりましたね。1話ごとの最後の部分て、どうやって締めくくるのがいいんでしょうかね?僕はよくそこで悩みます!

さてと次回は7日です。お楽しみに!

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