第51話.お料理
結局通常運転でした。
「あぁー、やっと終わった」
大きく伸びをし自室の机に突っ伏す。
長い長い夏休みの宿題をやっと終える事が出来た。課題はなぜか家庭科からも出てるし、英語は長文の書いてあるプリントがよく分からないし大変だった。
「よしっ」
勢いよく顔をあげると、部屋の隅に片付けておいたノートパソコンを持ってきて机の上に置いた。
「ネットサーフィンでもしようかな」
パソコンのキーを叩く音がカタカタと部屋に響く。
青い鳥で有名なSNS、つまりはTwitterを開いてフォローしている人の最新の呟きを見た。
今日一番の驚きといえばこれだな。俺の好きな女優が結婚したことを発表した事とだな。うん、おめでたいけど少し寂しい。
祝福のメッセージを送り、次はAmazonのサイトに移る。このサイトに一度入ると楽しすぎて中々出れないからな。要注意だ。
「このイヤホン良いな。金も余ってるし少し奮発して買うか」
ポチッと商品をカートに入れて購入を開始した。
(うわぁ、奮発したはいいけど、1万円を超えるとは思ってなかったよ。ゼロ一つ多いんじゃないかと思ったけど、それはそれで違うな。安すぎたらすぐに壊れるわ)
購入を完了させるとパソコンを閉じ自室を出た。
階段を下りてリビングに入るとテーブルの上にチラシが置いてある。
「ん?何だこれ」
そのチラシを手に取り、まじまじと眺めながらどんな内容が書かれているのか確認しようとしていると、キッチンの方から声がかかった。
「あれ?刻兄も興味あるの?」
声の主は俺の妹である現だ。
「興味も何も、まだこのチラシの内容ちゃんと見れてないから何の話だかさっぱりなんだけど」
そう言うと現は俺の方を指さして、いかにも「説明してやろうじゃないか」というオーラを身にまとった。あとは何かぶつぶつ言ってる。
「この機会を上手く使えばもしかしたら刻兄と蒼姉が……よしっ!」
「何かぶつぶつ言ってますけども、もうよろしい?」
「おっほん、待たせてすまないねぇ。ではその内容をチラシよりも分かりやすく説明してあげようじゃないか!」
「それは頼もしい」
現は俺の元に近付いてくるとドンと腕を組みながら一言。そうただ一言だけ言った。
「これはねカップルを大量生産するイベントなんだよ!」
「ん?何を言ってるのかな?」
「はぁ、刻兄は察しが悪いねぇ。花火だよ花火。は・な・び・た・い・か・い!」
現はそう言うと俺からチラシを奪い取って、見出しにドドんと書いてある花火大会の文字を指さした。
「ほらこれ楽しそうだよ。屋台もあるみたいだし、海も近いから案外涼しいかもよ?」
「まぁ、涼しいかもしれないけどさ」
「けど?」
現は首をこてんと傾けてまだ何か?という顔になる。
(うふふ現さん?まだあるんだよ。言いたい事が一つね)
「俺まだ一言も行くって言ってないんだけど」
言いたい事を言うとこれまた現が首を捻る。
(え?まだ何かあったか?)
そんな事を思いながら現を見ていると、現が口を開いた。
「何言ってるの刻兄?もう蒼姉とか誘ったよ?」
「え、まじ?」
「うん」
現はそう言うと俺にスマホの画面を見せてきた。
『蒼姉今暇〜?』
『暇だよ〜。現ちゃんどうかした?』
『いや、あのさ明日空いてるかなって思ってね』
『空いてるけど、何かあるの?』
『いやー、実は明日花火大会があってさ。刻兄も行くから一緒に来ない?』
(おい、ちょっと待て?俺行くなんて一言も言ってないんだけどな!?しかもこれ送信したの俺がリビングに降りてくるより前じゃん。あれ……もしかしてだけどあのチラシはトラップだったのかしら?そうだとしたら現ちゃん恐ろしい子!)
『刻も来るの?』
『来るよー』
『じ、じゃあ行こうかな?』
『やった!』
これが空宮と現の一連のやり取りだった。
「ということなんだよ、刻兄!」
「うん、もう行くのはどっちでもいいとして、行くメンバーは俺と空宮と現だけなのか?」
そう聞くとなぜか現はにっこりと不敵な笑みを浮かべた。
「え、何?何でそんなに笑ってんの?」
「そんな事ないよ?ほら、楽しみなだけだからさ!明日は浴衣着ていくんだからタンスから出しといてね」
「あぁ、うん」
現は結局俺に誰が行くのか教えずにそのまま自室に帰っていく。
まあ、明日になりゃ分かるし良いか。
直ぐに気持ちを切りかえ撮り溜めておいたテレビの録画を消費し始めた。
✲✲✲
空もいい加減暗くなってくる時間帯に差し掛かった頃に、俺はノロノロと立ち上がりながらキッチンに向かう。
今日は両親共に夜遅くまで仕事のため、俺と現で協力して晩ご飯を作れとのお達しだそうだ。まぁ現は、自室ですーすーと柔らかい寝息を立てながらお昼寝してたけど。おかげで起こすに起こせなかった。
キッチンに入ると俺は簡単なパスタを作るためにお湯を沸かす。
(えーと、麺はどこかな?……あ、あったわ)
俺は1人会話をずっと繰り返しながらパスタ作りに励んでいると、階段を降りてくる足音が聞こえてきた。
「刻兄ご飯作ってるのぉ?」
リビングに入ってきた現は寝起き特有のとろんとした目つきでそう聞いてきた。
「あぁ、もうすぐ出来るから、座って待っとけ」
「ふぁ~い」
現は欠伸混じりの返事を返してくる。
「ふっ」
「ん?どうしたの刻兄?」
「いや、何でもないぞ」
そうとだけ言うとまたパスタ作りを再開する。
現は俺の方を不思議そうにみながらソファに座り込む。
第51話終わりましたね。花火大会行きたいです。近くで見た時のあの心臓に響く轟音がもう一度聞きたいです。綺麗ですもん。
さてと次回は3日です。お楽しみに!