第45話.ようこそおいでませ
京都編?の始まりです。
ガタンゴトンと電車が線路の上を走る。
車内はクーラーが効いていて随分と心地が良い。そして何より知り合い以外に人がほとんどいないというところが最もいい。他の人に気を使う必要性がないから。
「次は嵐山ー嵐山ー」
電車のアナウンスが流れる。
周囲にいた数人の人も立ち始めた。窓から外の景色を見ると寺やら神社やらが見える。
「やっと着いたね」
隣に座っている凛がそう言った。
「京都で何するんだ?」
そう凛に聞く。この京都に行く計画を立てたのは凛なのだ。
「もう、京都に行く計画を立てた時に言ったじゃん!」
「そ、そうだったか?」
そう言うとぷんすかと頬を膨らませた。
お金の計算とかであまり聞けなかったのにと思いつつも、凛にどこに行くのかもう一度聞き直す。
「そ、それでどちらに行くのかしら?」
「えっとね、祇園に行ったり嵐山に行ったり、有名所は抑えたいね!どれだけ時間がかかってもいいから!」
そう強く言い放った。
しかし凛はああ言い放ったが、本当に時間かかる気がする。実際行くとそうでも無い感じなのか?分からん。
「門限とか大丈夫なのか?暗くなったら危ないぞ?」
一応凛にそう聞いた。
凛の事だから変な奴について行く事はしないだろうが、それでも多少は心配だしな。
「大丈夫だよ。その時は刻くんが家まで送ってくれるでしょ?」
「あ、俺頼りね」
「そうだよぉ。それに、危なくなっても刻くんは絶対に守ってくれるから安心安全なのさ」
凛は微笑みを浮かべながらそう言う。
(そんな風に言われると守らざるをえないよな。俺にも一応男の意地ってものがあるわけだし)
自身の中で勝手に理由をつけて、凛を家まで送るキッカケにした。てかまぁ、普通なら男子が女子を暗くなったら家まで、もしくはその最寄りまで送るのは普通なんだろうけどさ。
そんな事を思いながら着いた駅に降りた。
駅のホームから改札をぬけて外に出る。さすが日本の古都と言うだけあって外国人観光客はもちろんの事、日本人観光客もなかなか多い。
「ついに……ついに……」
隣では凛がわなわな静かに震えながら、何かブツブツ呟いている。
「おい、何ブツブツ言って……」
「ついに、来たぞー!」
凛に声をかけようとしたら突然凛は大声でそう言った。
(やめなさい。周りの人に迷惑になるでしょ!)
とか何とか思いながら凛の口を塞ぐ。
「もごふご……」
「はい、一回落ち着こうか」
凛は初めこそは軽くジタバタしていたものの、ものの数秒で大人しくなった。完全に大人しくなったのを確認すると、俺は凛から手を離す。
「ぷっはぁー!もー!息止まったじゃない!」
「あぁ、すまん。あまりにも大声出すもんだからつい」
「うぐっ……」
凛は俺に文句を言ったがその後の切り返しがクリティカルヒットだったらしく、すぐに大人しくなる。
「で、何であんな大声出したんだ?」
俺は凛に優しくそう聞いた。
「京都にやっと来れたことが嬉しくて、つい……」
「そうか。なら楽しむぞ」
「え?」
凛は困惑したような顔でこちらを見つめてくる。
「どうした?」
「え、いや、どうした?じゃなくて……怒らないの?」
凛は少し怯えてもいるような声でそう言う。
別にそんな怖い話じゃないけどな。
「怒らないよ。注意はするけどな。そりゃ常識的にあの大声はダメだが、お前は京都初めてなんだ。多少はテンションが上がっても仕方が無いだろうよ。それにお前めちゃくちゃ楽しみにしてただろ?」
「それはそうだけどさ……」
「まぁ、何でもいいから行くぞ。時間は有限だ、無限じゃないからな」
「そうだけど、って、きゃっ!?」
俺は凛の手を取って歩き出した。
掌からは凛の体温が直に感じられ、自分から握っておいてなんだがすごく恥ずかしい。そしてどうやらそれは凛の方も同じようで、少し手が震えている。
「と、刻くん?ちょっと積極的じゃないかな?僕恥ずかしいんだけど……」
「す、すまん。勢いでつい握った……」
「い、いや、別に嫌ではないんだけど……」
凛は嫌ではないと言いつつも顔は真っ赤だ。キャップを被ってなかったら、周りの人からも分かるくらいに本当に真っ赤。その顔を見てると俺まで顔に熱を帯びてきた。
俺は凛の手を離して前を歩く。
✲✲✲
「わー!金ピカだよ金ピカ!」
凛は小さい子供のようにぴょんぴょん飛び跳ねながら、金閣寺を指さしてそう言う。
「そりゃ金閣寺だからな」
「なるほど、名前のまんまなんだね。という事は銀閣寺は銀ピカなのかな?」
凛は「ふふっ、この僕に解けない問題は無い!」みたいな感じでそう言った。残念ながらそういう訳じゃないんだけど。
「銀閣寺は銀ピカじゃないぞ」
俺は凛に銀閣寺についての真実を伝える。すると凛は勢いよくこちらを向いて、驚いたような顔になった。
「え?マジ?」
「うん。マジ」
「じゃあ名前に銀がついてる理由はなんなの?」
「分からん」
そう言うと凛は少し悔しそうな顔になる。
そんな表情を見ながら俺はあることを思い出した。
凛はイギリスで人生の大半を過ごしていたから、日本の事についてはまだあまり詳しくないのだ。
「ぶー、よしっ!じゃあ今から銀閣寺も見に行こう。そしてそこでなんで名前に銀がついてるのかその理由を探しに行くよ、刻くん!」
凛はそう言うと俺の手を取り走り出した。
先程と逆の展開。少し恥ずかしいが、まぁ、こんなに楽しんでいるのだ。多少は付き合ってやるか。
第45話終わりましたね。京都は兵庫から近いですから1時間ほどで行けるんで、割と交通の便がよろしいです!銀閣寺行きたいなぁ。
さてと次回は22日です。お楽しみに!