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第44話.日常

 外からはミンミンとうるさい蝉の声が響き、俺はその鳴き声を聞いてやっと起きた。

 昨日合宿から帰ってきてそのまま直ぐに解散。俺は直帰してそのまま風呂に入って寝たら今のこの状況と言ったところだ。

 空宮や華山達は神戸に着いた後、そのまま皆でご飯を食べに行ったらしいが、俺はそういう気にもなれなかった。


「あぁ……夏休みの宿題終わってないよ……」


 もう一度寝ようかどうかと考えていると、隣の(うつみ)の部屋からそう言う呻き声が聞こえてくる。

 夏休みはまだあるのに何を焦っているのかと思いつつも、少し心配なのでベッドから降りて現の部屋の前に行き、扉をノックした。


「おーい(うつみ)さーん?何でそんなに呻き声上げてんの?」

「刻兄聞いておくれよ」


 中からはおよそこの世のものとは思えない声のトーンで(うつみ)はそう言った。


「何かあったのか?」

「実は……」

「実は?」


 (うつみ)に何を聞いて欲しいのか早く言えと、促す意味でそう言った。


「実は夏休みの宿題がまだ半分も終わってないんだよ!」

「あらら……」


 思っていたよりも重いものが来た。というよりもさっきもそんな事を言ってたな。夏休みがまだまだあるとは言えども、半分以上をやるにはちょっと大変な日数しか残っていない。


「どうしよー!友達と遊ぶ予定いっぱい入れちゃったよー!」


 (うつみ)は文字通り頭を抱え、そしてベッドの上でゴロゴロしながら、「どうしようどうしよう」とぶつぶつ呟いている。こんな事になる位なら、前もって進めておけばよかったのに。

 そう思いながらも、やはり俺自身にはどこか甘い部分があって、


「はぁ……じゃあ手伝おうか?」


 溜息をつき半分嫌々ながらもそう言った。するとそれを聞いた(うつみ)は、目をきらきらさせてこちらを見てくる。


「本当にっ!?」

「お、おう」

「本当の本当にっ!?」


 (うつみ)は強く念を押すかのようにそう聞いてくる。


「本当なものは本当だよ。信じないと手伝わんぞ?」

「あー!嘘嘘、信じるから手伝って!」

「はいはい」


 そう言うと、一度部屋に戻り筆記用具を取りに戻った。



✲✲✲



 俺は(うつみ)の隣に座って数学の宿題を手伝う。


「だーかーらー、ここは解の公式のこの部分を使ってだな」

「あー!数学分かんない!」

「うるせぇ……」


 こんなやり取りをさっきから続けているが、中々宿題は進まない。時間は進むのに宿題は本当に進まない。


(結構分かりやすく教えてるつもりなんだけどな?これが教える難しさか……)


「あぁ、もうおしまいだぁ……。私はこのまま宿題が終わらずに一生宿題をし続けなくちゃならないんだ……」


 (うつみ)はついに訳の分からないことを口走り始めた。そろそろこの子やばいかしら。

 そう思いながら一度休憩を挟むために立ち上がる。


「刻兄どのに行くの?」


 (うつみ)はハイライトの消えかかったような目で、こちらを見ながらそう言う。


「お茶を下に取りに行くんだよ。お前もそろそろ休憩したいだろ?」

「うん……ありがと」

「おう。俺が取りに行ってる間に少しでもいいから進めとけよ」


 一階に降りるとキッチンに向かいコップを二つ棚から出す。そして冷蔵庫の中からお茶を取り出してお盆に全部載せたら準備完了。あとはこれを運ぶだけだ。

 お茶の入ったポットが零れないように、ゆっくり慎重にだが、確実に一歩ずつ歩みを進める。

 階段を何とか登り終えたあと、(うつみ)の部屋に向かった。


「お茶持ってきたぞ。一旦休憩だ」

「やったー!」


 部屋には歓喜の声が広がる。どうやら相当宿題をするのが嫌だったらしい。

 だけどまぁ、少しは自分で進めてるから多少は許すか。

 俺はまた(うつみ)の隣に座るとコップにお茶を入れて、(うつみ)に渡す。


「ほい、ひとまず休め」

「ありがと〜」


 (うつみ)はそう言って俺からコップを受け取るとゆっくり飲み始めた。

 こいつも静かにさえしていれば相当可愛いのだ。兄である俺がそう言うのだから多分間違いではない。だけどなぁ、こういうタイミングじゃないと静かにならないんだよ。


(もったいないな)


 そんな事を思いながら自分の宿題を少し進める。


「刻兄は何やってんの?」


 (うつみ)にそう聞かれる。


「これか?これは国語の宿題だよ。古文の内容を少し頭に入れておこうと思っててな。内容知ってるのと知らないのとじゃ全然分かりやすさが違うからな」

「へー、全然わかんない」

「あはは……」


 ダメだこりゃ。この子相当頭が残念な子になってる。通ってる学校は実は俺よりも偏差値が高いところなのに。いやまぁ、こいつがしっかり進級進学出来たらいいんだけどな。


「しばらく俺はこっちやるけどお前はどうする?国語一緒にするか?」


 俺は(うつみ)にそう問う。

 すると(うつみ)は少し悩んだ末に答えを出した。


「いいや、私はこれをしっかり終わらせるよ。せっかく刻兄に教えてもらったしね」

「そうか」

「うん」


 (うつみ)はそう言うとにっこりと笑った。年相応の可愛らしい顔でにこやかに。


「よーし、休憩も終わった事だしやるぞー!」


 (うつみ)はそう言うと頬を軽く両手でパンっと叩き、気合いを入れ直す。

 俺はその様子を隣で見ながら、また古文の勉強を再開した。

 自分の妹が成長するのは意外と早い。例えば気付いたら俺より家事ができるようになってたりな。

 そんな妹に少し寂しさを感じながらも、俺は今日もこいつを見守る。


第44話終わりましたね。今は話の季節と真反対ですが、皆さんは冬休み何するとか決まってますか?僕は予備校にこもりっぱなしです!きつい笑

さてと次回は20日です。

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