第39話.朝の楽しみ
「わー、いっぱいご飯が並んでるよ!」
凛が目をキラつかせながらそう言う。確かにその通りだろう。手前の方から野菜、フルーツ、パン類、ソーセージ、玉子類、魚類、ご飯、味噌汁コーンスープ、と一目見ただけでも軽く五十種以上の料理が並んでいるのが分かる。
「何食べよっか」
空宮のその一言で俺達はまた動きだした。それぞれ料理を載せる皿とお盆を持ち、食べる時に使いそうな食器類も取っておく。
「私は朝あまり食べないので野菜メインでいきます」
「もう有理ちゃんったら本当に少食だね。そんなんじゃ大きくなる所も大きくならないよ?」
「別にいいんです、お姉ちゃんほど大きくなくても」
「そう?大きかったら男の子寄ってくるよ?」
「そんなことで近寄られたくありません」
「あはっ、確かにそれもそうだ」
華山姉妹は仲睦まじげにそんな会話をしながら、それぞれ料理を取っていった。ちなみにそれ以外の女子、つまりは空宮と凛はと言えば、この2人はこの2人で悩みながら選んでいる。
「ぐぬぬ……朝動いたからお腹減ってるけど、食べすぎたら体重がっ……」
「うーん、和にするか洋にするか悩みどころだね」
凛は普通の悩みだけど、空宮の場合深刻だな。女子にとって体重の軽さってステータスか何かなのだろうか。『素早さが上がった!』的な?
そんな事を暇つぶし程度に考えつつ、自分の朝食を取っていく。俺は普段食べてるのと同じ感じでいくか。パンにサラダに、あと目玉焼き。それから軽くフルーツを盛り付けてっと、完成。
「おー、男の子にしては随分と健康的だね」
急に俺の右隣から声がする。
内心驚きつつも平静を装いながら応答した。
「そうか?普通だと思うが」
「いやいや、結構健康的だと思うよ?大体の男の子こういうところ来たら、お肉系ばっか取りそうだし」
「まぁ確かに」
そう言われれば俺にも思い当たる節があった。灯崎とか灯崎とか灯崎とか。これって灯崎しか思い当たる節ないってことじゃないのか?まぁ、男子の知り合いあんまり多くいないから仕方がないけど。
少々自虐ネタを自分で入れつつ、席の方に歩いていく。するとそこには、もう既に選び終わっていたのか華山がいた。
「おう、もう選び終わったのか?」
「はい。私は朝は野菜とパンだけなので」
そう言われてみると確かに野菜とパンだけだな。本当にシンプル。
「鏡坂くんも選び終わったんですか?」
「あぁ、選び終わったぞ。こんな感じだ」
そう言うと華山に選んだ料理を見せる。華山は他人の朝食を見るのが珍しいのか、興味津々な目で料理を見ている。
他人の家の朝食って話でしか聞かないもんな。
「すごく健康的ですね」
華山はじっくりと俺の選んだ料理を見た後そう言った。
(あら、凛と全く同じ感想。割と普通な気がするんだけど)
「そうか?」
「はい」
そう短く会話した後にふとある事に気が付く。
「あ、飲み物持ってくるの忘れてた」
「あ、私もです」
つい先程、後でいいかとひとまず取るのを後回しにしていた飲み物を完全に忘れていたのだ。そしてそれは華山も同じらしい。
「俺のやつとついでに、華山のも取ってくる。何か飲みたいものあるか?」
俺は華山に聞いた。そして5秒ほど考えた後に「では、牛乳でお願いします」と言う。
「了解。くつろぎながら待っとけ」
そう言うとドリンク類が置いてあるコーナーへと向かった。その場に着くと、コップを二つ取りそれぞれに別の飲み物を入れる。片方には華山の分の牛乳を。もう片方には俺の分の水を入れたら、後はこれを持っていくだけだ。
両手にコップを持ち零さないように慎重に歩く。
「おととっ」
「あ、すみませーん」
ここにはかなりの人数がいるため、人を掻き分けてきた人とぶつかりそうになる事がたまにある。しかも急に死角からドーンだよ!って事にもなりかねないから、より一層の注意がいるわけだ。
「あ、お帰りなさい」
「おう、ただいま」
何とか帰還すると華山がそう声をかけてくれる。
「ん、これでよかったな?」
そう言うと片手に持っていたコップを華山に手渡した。
「はい、あってます。ありがとうございます」
華山は礼を言いながらコップを俺から受け取り、ぺこりとお辞儀をする。
「そういや先生は?一緒じゃなかったっけ?」
俺はふと、最初は華山と一緒にいた先生がいないことに気が付いた。すぐに華山もその事について答えてくれる。
「お姉ちゃんは多分まだ朝ごはん選んでます。私と違って結構食べるので」
「へー、意外だな」
「ですよね。私もそう思います」
俺達は2人して笑った。
✲✲✲
「おっ待たせー」
5分ほどした頃、後ろから陽気な声が聞こえる。 振り向いてみるとそこには朝食を零さないようにと慎重に持った空宮と凛がいた。
「長かったな」
そう言うと空宮達はゆっくり席に座りながら喋り始める。
「本当にそうだよ。だってどれもこれも美味しそうなんだもん!」
「それで選んでたらこんなに時間が経っちゃってたって訳だよ」
「そうか、てか先生は?」
よくよく見てみればまだ先生の姿が見えない。俺はキョロキョロと周りを見渡していると凛が口を開いた。
「あぁ、先生はねまだ真剣な目付きで選んでたよ」
「そうか」
「はぁ、お姉ちゃんったら皆を待たせて……」
凛の話を聞くと華山は額に手を当てながら少し呆れている。
まぁ、いっぱい食べることは悪い事ではないからな。許してあげようよ。
「本当に姉が申し訳ありません」
「別にいいよ〜」
華山がそう謝ると、凛が手をヒラヒラさせながら別に大丈夫だと言う。
確かに華山が謝ることでもない。それに自由に食べたらいいわけだしな。
「すみません、姉は待たずに先に食べ始めましょう」
「だねー」
華山達はそう言うと食べる準備を始める。その準備が終わると手を合わせる。
「頂きます」
静かに全員そう言うと食事がスタートした。
やっと食べれる。実はすごくお腹減ってたから助かった。
第39話終わりましたね。皆さん朝の楽しみってありますか?僕は2度寝です。そしてその後さらにする3度寝。なんか少しの罪悪感がいいスパイスになってより一層気持ちよく寝れるんですよ。
さてと次回は10日です。お楽しみに!