第360話.有馬温泉
三ノ宮を出発してから30分ほど乗っていると目的地の有馬温泉に着いた。風下に立っているのか、微かに硫黄の香りがツンと鼻を刺した。
春休みという事で、旅行に訪れている家族も多く、沢山の人で賑わっている。
「よし、まずは宿にチェックインするか」
地元からバスで30分で来れるところとは言え、今日の目的は温泉旅行。ちゃんと宿も取ってある。しかもそれなりに良さげな場所。一昨日の夜に刻と「どこがいいかな?」と話し合いながら決めたのだ。
かなりの歴史がある宿でもあるらしく、クチコミを見てみても評価は上々なので安心して泊まれる。ただ、その分一泊あたりの料金は少しお高めだが。
「えーと、こっちかな?」
今日の主な役割分担は私がスマホを使っての案内役。そして、刻は服などの入った重い荷物を持つパワー系の役割だ。重いとは言っても2人分だけなので刻はかなり楽そうなのだが、私が長時間持つにはキツいと言った具合。
「宿の中だけで大きい温泉が三種類あるんだっけ?」
「みたいだね。泊まるところ以外にも沢山温泉はあるから、入ってみる?」
「そうしようか」
「じゃあ、午前中の間に何個か回って、お昼食べた後はブラブラと観光。その後に宿でまた入ろっか」
「おっけー。そうと決まったら尚更早くチェックインして時間を作らないとな」
太陽の日差しなのか、温泉街特有の熱気なのか分からない温もりに包まれながら私達は温泉街を練り歩く。普段暮らしている街とは違うその空気感が何だか新鮮で、とても心地が良かった。
空いている左手で刻の右手を引き寄せると、恋人繋ぎをする。ここでは特に浮くこともないし、むしろ恋人繋ぎをする事が自然でさえある感じがした。
しばらく歩けば目的地の宿に着く。ネットの画像で見た時も大きいなとは思っていたが、実物をこの目で見ると尚更そう思う。本当に大きい建物。
中に入ってエントランスを進む。どこか厳かで、だけど細部におもてなしの精神を感じる雰囲気は悪くなかった。
受付を済ませ今夜泊まる部屋の鍵を受け取ると私達は移動する。時折中庭などが見えて、そこに流れる小さな人口の川からも湯気が立っていた。
「ここだな」
鍵を使って中に入ると、畳のいい香りがしてくる。私はこの香りが嫌いではない。旅行に来たという感覚と、祖父母の家に帰ってきた感じがするからだ。
荷物を部屋の隅に置くと2人して部屋をぐるりと見渡した。部屋の中心には木製のテーブルが置いてあり、四つ座椅子が並んでいる。広縁には小さな机と椅子が二つ。そこからはちょうど先程見た中庭を見下ろすことが出来た。
他にあるとすれば洗面所とトイレがあるというところくらいだろう。お風呂が無いのは、そもそもここの売りが温泉だからだ。各部屋に温泉があれば他人の目を気にすることも無く刻と2人で入れたが、無いものは仕方がない。
「よし、じゃあ早速行ってみるか」
「うん」
観光をする時に使うためのバッグをそれぞれ持ち、財布とスマホ、あとは部屋の鍵をエントランスに預けるために持つと部屋を出る。
✲✲✲
適当に練り歩きながら日帰り温泉の可能な所を見つけた。そこに寄ると、私達はそれぞれ男湯と女湯に分かれる。
「何分後に集合する?」
「何個か回りたいからなー……40分ってところかな」
「分かった。じゃあ40分後に集合ね」
赤い暖簾をくぐり脱衣所に入ると服を入れるカゴを確保する。そこに荷物を入れてから私は服を脱いだ。
周りには子供連れの母親や、女子大生などもちらほら見られる。
「……あの人おっぱい大きい」
人の胸にばかり目がいくのは自分に自信が無いせいなのかどうなのかは定かではない。ただ間違いなく、あの女子大生は大き過ぎる。
自分の胸に手を当てて寄せてみると確かに谷は出来るのだ。ただ何もしなくても常にあるわけではない。普段は持ち上げてくれるようなブラをしているし、色々と工夫はしてみているが、やはり天然物には敵わないところなのだ。
と、そんな事ばかり考えていても仕方がない。今日は刻との温泉旅行。ここでは楽しい事だけを考えていればいいのだ。
自分の中で気持ちを切り替えると、大浴場に向かうのだった。
第360話終わりましたね。この有馬温泉回を思いついた理由は、僕が今ひたすらに温泉に行きたいという理由だけなのです。じゃないと思いつかなかった。まぁ、旅行はさせてあげたかったのでちょうどいいタイミングだったということで。
さてと次回は、13日です。お楽しみに!
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