第33話.夜の恋バナ前半戦
「恋バナをしよう!」
時計の針が夜の11時を示した頃、空宮が不意に口を開いた。急なその発言に俺達は驚き、そして奇異の視線を向ける。
「藪から棒にどうした?」
そう空宮に問うと、空宮はふふんと自信ありげに胸を反らせて、こちらを向いた。
「だから恋バナだよ!」
空宮は目をキラキラさせながらこちらをじっと見つめてきた。
「あのな?何で恋バナするの?って事。分かる?」
出来るだけ優しく空宮にそう聞いた。だが、どうやらその優しすぎる態度がいけなかったのだろう。空宮は頬を膨らませて、ほんのちょびっと怒りながら反論してきた。
「そんな事は分かってるよ!ほら、合宿とかお泊まり会とかそういうのって夜の定番は恋バナでしょ?だから、それをしようってことだよ!」
「あぁ、そう」
「うん、そうだよ!」
空宮はそう言うと、既に敷いてある布団を一箇所に集めて枕を集め始める。
「何してるんですか?」
その行動に疑問を抱いたのか華山はそう尋ねた。
「ん?あぁ、これね。これはねみんなが寝転びながら皆の顔を見てお話出来るようにセッティングしてるんだよ」
「なるほど。ではその枕は何のためですか?」
華山がそう聞いた瞬間、空宮がいきなり立ち上がってこう言った。
「寝落ちした時用だよ!枕があった方が痛くないじゃない」
「なるほど」
華山は空宮の話を聞いて至極納得したそうで、とても頷いている。
まぁ、確かに空宮にしては考えたな。この子は頭が残念すぎる訳ではないのだが、たまに抜けているところがあるのだ。
そんな事を考えていると、空宮がこちらを不満そうな目で見てきた。
「何か刻、私に対して失礼なこと考えてない?」
「いや、そんな事は無いぞ?」
咄嗟に適当な事を言ったが、空宮のやつ的確に話の内容聞いてきた。もしかしてテレパシーなのか?
ポーカーフェイスで何とかその場を誤魔化した後、その場を退散して自分のベッドに戻った。
「ふぅ、危なかった」
安堵の息を吐くと、和室から足音が聞こえてくる。
あれ、また誰か来たのか?
少しベッドから身を乗り出して廊下の方を見てみると、歩いて来たのは空宮だった。
「どうしたんだ?」
一応そう聞いておく。すると空宮はこちらの方に近付いてきた。
「ちょっと、枕貰ってくね〜」
「え、ちょ……」
空宮はそうとだけ言うと俺の枕を片手に足早に去っていく。
どうしましょう、ゆっくり寝れなくなってしまった。
そんな感じで少し落ち込んでいるとまた和室から足音が聞こえてくる。今度は誰だ?
今度は身を乗り出さずに待ち構えるスタイルでいると、来たのはまた空宮だった。
「今度は何だ?」
そう聞くと空宮は腕を組みながら口を開いた。
「何だ?じゃないよ。刻が全然来ないから迎えに来たの!」
「あれ、俺も行くの?」
「そうだよ」
これは予想外。恋バナって女子だけでするもんだと思ってたよ。
「って事でほら立った立った」
空宮はそう言うと俺の元に来て、俺の腕を掴んだ。
「レッツゴー!」
✲✲✲
電気は消していて、唯一の明かりはスマホの画面だけだ。その明かりを囲うように俺達は寝転がったり座ったりしている。
ちなみに顔はぼうっと薄ら見えるだけで、正確な表情を読み取るのはかなり難しい。
「じゃあ、始めようか」
空宮が少し楽しげな声のトーンでそう言った。
いよいよ始まるんだな。
そう俺が思っていると、凛が口を開く。
「ちょっといいかな?」
「はいどうぞ凛くん」
空宮は先生風な態度を演じながら凛に発言を促した。
先生で思い出したが、我らが顧問の華山先生はホテルにあるバーで朝まで飲むそうです。おっと、話が逸れた。
「実際恋バナって何するんだい?僕そういった経験がなくてよく分からないんだよ」
意外だな。そういった事とかは、凛はよくしてそうなイメージがあったんだが。これはあれだな人を見た目とかで決めつけたらダメだってやつだな。
「いい質問だね」
空宮はそう言う。
「恋バナはね、気になる人の話とか実際好きな人の話とか、なんならどうやって告白しようかってことを話すものなんだよ!」
かなりの力説をする空宮。もうすぐ深夜だと言うのに、どこから出てくるのだろうか、そのエネルギーは無くなる気配を一向に見せない。
「なるほど。分かった僕恋バナ頑張るよ!」
凛は空宮の力説を聞いた後、すごくやる気に満ちたようだ。
多分あれだ、頑張り所間違えてるな。
「じゃあまず好きな人がいる人は、手を叩いて教えてね」
空宮がそう言うと、まばらなタイミングでタンタンと音が鳴った。ちなみに、先程も言ったが周りはかなり暗いため誰が手を叩いのかは全然分からない。
「結構いるんだね」
「だな」
そう言うと凛がつんつんと肩をつついてきた。
第33話終わりましたね。恋バナ楽しいよね。でも絶対に自分の好きな人は言わない!後は最後変な終わり方したのは次回に続くからですね!
さてと次回は28日です。お楽しみに!