第296話.映画の誘惑と、テストの絶望。それに彼氏さんの癒し
カチャカチャと使った食器を洗剤で洗う。
隣にはピタリと刻が引っ付いていて手伝ってくれていた。さすがに一軒家ほどキッチンの広さはないので何をするにしても少し窮屈に感じる。まぁ、その分近くに感じられると思えばなんでもない事なのだが。
「これってどこに片付ける?」
「それはねー、一番上だね」
「了解」
私よりも身長のある刻の方がさすがに高所の作業は手際がいい。反対にこの閉所でしゃがみながらの作業を強いられる時は小さい私の方が効率がいいのだ。
つまり、適材適所、役割分担が大切ということなのです。
「ここでいいか?」
「うん、ばっちり!」
「よし、じゃあ他の食器類もさっさと片付けていくか」
刻はそう呟きながらテキパキと食器を指定の位置に戻していく。定期的に私にどこか聞いてくるものの、大体の配置は頭の中に入っているようだ。
うむ、こういった細かい事をちゃんと覚えて出来るのって結構すごいと思うのは私だけでしょうか?ちなみに私は苦手な方なのです。
「こんなものかね」
「だね。よぉーっし!じゃあ刻!」
「ん?」
「今から映画見よ!」
「映画?レンタルしてたっけ?」
首を傾げながら過去の記憶を探すような仕草を見せる。
私はその刻の疑問に答えを出すようにタブレットを持ち出した。
「ほら、動画配信サービスの契約してたでしょ?」
「あぁ、そういえばそうだったな」
合点がいったようで刻は大きく頷く。
さて、映画を見ると刻に提案をしたはいいものの、実は何も見るものを決めていなかったとは今更言えない。なので、ここは上手いこと刻に提案してもらう方向に持っていく。
「刻は何か見たいものある?」
「いや、俺は特に」
「そ、そう……。別になんでもいいんだよ?映画館で公開してる時に見に行きたかったけど忙しくてそのままー、みたいなやつでもいいし」
「うーん……何かあったかなぁ」
むむむ、このまま行くと確実に私に見る映画を決める権利が振られるよね。どうしよう。刻と映画を見たいだけだったんだけど……ここで詰まるとは思ってなかった。いや、初めから見る映画を決めてなかった私が圧倒的な原因なんだけども。
うむと悩みながら、ひとまず私はソファに座ることを提案した。
「まぁ、無いなら探しながら決めようよ」
✲✲✲
いつも通りの朝を迎えて、いつも通りに支度をし、いつも通りの通学路を通る。今日もそんな何気ない日常を過ごしていたわけなのだが、学校でついに学生にとって耳の痛い事を伝えられた。
「はぁぁ……テスト嫌だぁ」
「そんな事を俺に言われてもなぁ」
ソファに座りながらコーヒーを飲む刻にそう言われる。
ジッとその方向を見ると私は刻の手からコーヒーの入ったカップを取りそれをテーブルに置いた。
「あの……蒼さん?」
「何ですか」
「甘えたいのかな?」
「そうですけど」
急にそう聞いてくるのも仕方がないのだ。何せ今の私は刻の膝の上にちょこんと座っているのだから。コーヒーをテーブルに移動させたのは私が座る時に邪魔にならないようにするため。
いつも通り刻の手を私のお腹の前あたりに持ってきてベルト代わりにすると私は気持ちが満たされていく。
思わず頬が緩んでしまいそれが刻にも分かったようだ。
「本当に嬉しそうだな」
「うん、相手が刻だからね。嬉しいよ」
「それはよかった」
「まぁ、テストの事が頭の中を刻の事と二分してるのは解せないけど」
「それはまた教えてあげるから頑張ろうぜ」
「うん、お願いします」
教えて貰えることが確定したのでひとまず安心する。
自分で勉強してもいいのだが、どうにも集中できないものだから、監視兼教師役がいた方がいいのだ。それが刻なら尚更身に入る。
「まぁ、今日はゆっくり休もうか。体育もあって疲れたしさ」
「うん。勉強云々の話してたら、ふあぁ……私も眠くなってきた」
「よし、じゃあベッドに移動しますよーっと」
私の体を刻は軽々と持ち上げてそのまま寝室に運んでくれた。
第297話終わりましたね。いつイチャイチャさせようかなと思いながら今は書いています。はい。ひとつ案はあるんですけどねえ。
さてと次回は、8日です。お楽しみに!
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