第291話.後輩は一歩を踏み出す
いつも通り部活を終えて私は何となく校門であいつのことを待ってみることにした。いつもは迎えに来てくれたり、待っててくれたりするから、今日はその反対の事をするのだ。
先輩達には先に帰ってもらうように言っておいたので、私の今の暇つぶしはカメラとスマホしかない。まぁ、スマホにもカメラは付いているのだけど。
一眼レフのカメラを夜の中に浮かぶ校舎の方に向けながら私は一枚パシャリと撮った。
写真に移る生徒の影は黒くなっていて制服も顔の表情も何も分からない。
「うーん、やっぱり暗すぎるのはよくないなぁ」
撮った写真を眺めながら1人呟いて今度は空にカメラを向ける。
ぷかぷかと1人寂しそうに浮かぶ月はとても綺麗で、だけど同時に周りの闇からも浮いていた。
なんだかそれは中学時代に見た景色と似ていて少し嫌になる。
「ふぅ……」
「なーにため息ついてんだよっと」
後ろから私の肩をポンッと叩いて聞き慣れた声が聞こえた。
「別に何でもないよーだ」
「そうかぁ?」
「そうだよーっと。ほら、秋早く帰ろ。今日は珍しく私が待ってたんだから」
「ん、確かに珍しいな」
歩みをザッと踏み出し私達は帰路に着いた。
「他のバレー部の人は?」
「あぁ、置いてきた」
「えっ!?何で!?」
「いや、早苗の姿が見えたからつい」
「はぁ……バカなの?」
ため息をつきながらそう言うと秋は「待ってくれてたのが嬉しかったからつい」と呟く。
どうしてこんな不意に私も恥ずかしくなるような事を言ってしまうのだろうか。おかげで冬の寒さなんか感じないくらいには頬が熱い。
「バーカバーカ!」
「あれ、何で罵倒……」
第三者の目からは私達はどう見えているのだろうか。
小さい女の子と大きい男の子がじゃれあっているように見えるのだろうか。悪友関係?それとも恋人?ただの友人?
結論どれでもいい訳だが、せめて私の方が偉いように見られたら嬉しいなんて思ったり。
まぁ、幼馴染だから優劣など何も無いのだけど。
「あ、そう言えば秋この前告白されたって言ってたよね?」
「言ったな」
「結局返事はどうしたの?オッケー出したの?」
そう聞くと秋は首を横に振る。
「何で振ったの?聞いたところによれば凄く可愛い子だったらしいけど」
聞いたところだなんて言っているが、本当はなぜかその告白した子から「私が貰うから!」と本人直々に宣言されていただけなのだけど。その時に顔はよく見たがかなり可愛かったし、すごく整ってもいた。少し気も強そうだったのが印象に残ってる。
「んー、可愛いのかもしれないけどなぁ……俺普通に好きな人いるし」
「え、そうなの?」
「うん。知らなかった?」
「全然知らなかった」
「まじかぁ」
少し残念そうに笑いながら秋は私の方を見てくる。
「何?」
「いいや、別に何もないですよー」
「あっそ。……にしても秋に好きな人がいたのかぁ。ねぇ、好きな人がいるならなんでその人に告白しないの?秋なら何となくいけそうな気がするんだけど」
「そう簡単な話でもないんだよ。特にその人はな」
「高嶺の花なの?」
「まぁ、ある意味?」
また秋は笑いながらそう言った。
何が面白かったのかは分からないが、私はひとまず鼓舞の意味も込めて秋の肩にトンっと拳を当てる。
「幼馴染の私が保証しよう。秋はその高嶺の花をきっと手に入れれるってね」
「おう、ありがとよ」
「うん、できるできる!」
ニッと笑うと秋は柔らかく微笑む。
「じゃあ、近いうちにでも告白にチャレンジしようかなー。早苗の保証付きらしいしな」
「うん、安心して砕けてこい!」
「あれ?保証の意味は……」
第291話終わりましたね。今回は江草と榊原の話でした。番外編では無いのでご了承くださいませ。一応時間軸はそのまんまなので。
さてと次回は、28日です。お楽しみに!
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