第281話.デートは楽しいものです
蒼の事を起こしてから隣人への引越しの挨拶を終えると、俺達はソファに並んで座っていた。
本日のメインイベントが終わったのでする事が無いのだ。
「暇だぁ」
「そうだな」
「むん」
蒼は俺の肩に頭を乗せて「くぁ……」と眠そうに欠伸をした。
いつものように頭を撫でやると、蒼は気持ちよさそうに顔をふにゃりと緩める。
「そう言えば冷蔵庫の中身からだったなぁ」
「スーパーに行ってないからな」
「じゃあ、今から買いに行く?」
「あぁ、別にいいぞ」
「うん、分かった」
そう言いながら立ち上がると蒼はさらに何かを思いついたようで、パチンと手を叩きながらこちらを振り返った。
「せっかくだしさ、デートしようよ!」
「デート?」
「そう!ほら、ただ2人でお買い物に行くのも楽しいけどさ、せっかくのお休みだしもっと楽しく使いたいじゃない?」
「まぁ、そういう事なら。でもどこに行くんだ?」
買い物は絶対にするわけであんまり遠出してスーパーに寄る体力が無くなるというのも本末転倒な気がする。
「そこはね私に一つ案がありますよ!」
「ほう?それはどこなのかな」
「その場所はねブルメールだよ!」
「ほう」
ブルメールとはHAT神戸にあるいわばちょっとしたショッピングモールのようなところだ。映画館や服屋さん。飲食店に雑貨屋さんなど、かなりの多種多様な店舗が集まっている場所。もちろんそこにはスーパーもある。
「あそこなら、歩きでも全然行けるし、何よりスーパーもあるからデート終わりによれば一石二鳥!ね、どうかな?」
「どうも何も、俺は蒼の提案に初めから従うつもりだったしいいと思うぞ」
「やった!」
可愛らしい笑顔を浮かべながら蒼は今にもその場で飛び始めそうになる。
「じゃあ、そうと決まったら外出の準備でもしようか」
「うん!服装はこのままで全然いいから、お財布とかだね」
「だな」
小さめのカバンに俺は財布と鍵を突っ込みスマホをパンツのポケットに入れると、俺はせっせかと準備を進める蒼の事を待った。
忙しなく動くその様子は見ていて面白い。
「ん、何か付いてる?」
「いいや、可愛いなぁって思っただけ」
「ありがとっ!刻はかっこいいよ!」
「ありがとさん」
そんなバカップルみたいなやり取りを交わしながら、準備を終えたらしき蒼と一緒に玄関に向かった。
✲✲✲
空は雲半分、青空半分といったところで、風も程よく吹き日の光も定期的に当たるので非常に過ごしやすい。
「〜〜♪」
蒼も先程から上機嫌で鼻歌を歌いながら歩いていた。
「何の曲?」
「bitterbitterだよ」
「あぁ、蒼が好きなやつか」
「そうそう。私この曲好き」
鼻歌から次第に口ずさむ方にへとシフトしていき、最後の方では俺も一緒に少し歌っていた。
しばらく歩いてから高速道路下の道を通ると、少し奥に緑色の独特な形をしたオブジェが現れ始めた。さらに奥の建物に目を見やると、建物の最上階に巨大なカエルが鎮座している。
「あの美術館小学校の時校外学習で行ったよね」
「だな。まぁ、どっちかと言うと美術館よりもお昼後の公園で遊ぶことの方が楽しかったけど」
「それは私も同じだったなぁ」
2人して笑いながら、美術館とは違う方向を向く。
残念ながら今日は美術館自体に用はないのだから。まぁ、公園には行くかもしれないけれど。
「ねぇ、ブルメールで何する?小物系の雑貨とか、食器とか見てみる?」
「いいと思うぞ。あ、そうだ、本屋にも行っておきたい」
「いいよ〜。でも何買うの?漫画?」
「いや、最新の本屋大賞の小説でも買おうかなと。恋愛ものらしいから、蒼も読みやすいと思うぞ」
「へ〜、じゃあ、刻の後に借りようかな」
「おう、貸してやる」
簡単な予定を立てつつ、見えてきた入口に入る。
ブルメールには入口がいくつか存在しており、ここは端っこにある入口なのでメインのところほど大きくはない。その代わり雑貨屋さんが近くにあるので便利であることに違いは無いのだが。
「よーっし、先に二階に行って本を買っちゃおう!雑貨はその後だよ!」
「了解」
少し奥に進み見えてきたエスカレーターに乗り込むと目の前には靴屋さんが現れ始めた。左手を見れば映画館やゲームセンターの騒がしい音や光、人混みが目に入る。
本屋さん自体はさらに奥に入ったところにあるので、エスカレーターを降りてからはそのまままっすぐ通路に従って歩いた。
俺と蒼は手を繋いで歩いているが、さすがショッピングモールと言ったところか、カップルや夫婦も多くいるため、奇異な目で見られたり、暖かい眼差しを送られることはほとんど無かった。
「あ、鏡坂と空宮さんじゃん」
代わりに聞き覚えのある男女の声が俺達の事を呼び止めた。
第281話終わりましたね。宣言通り隣人はカットしてやりましたとも。はい。その代わりデートに行かせることに成功しました!やったぜ!
さてと次回は、8日です。お楽しみに!
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