第269話.新しいお部屋
マンションの前に着くと早速鍵を使ってセキュリティの万全の自動ドアを抜け、エレベーターを使って五階にある新居に向かった。
ここには家具の配置や周りの様子を見るために一度来たことがあるが、やはりマップはまだ必要。すぐに慣れねばと思った。
「にしても本当に何もないな」
「そうだね」
部屋の中はすっからかんで何も無く、あるのは私達が持ってきた荷物が寂しく部屋の隅にポツンと置かれているだけだ。
もうすぐ引っ越し屋さんが来るので部屋は物で埋まるだろうが、そうなってしまうとこの景色はもうしばらく見ることはないので何となく写真を一枚撮る。
パシャリとだけが響き何とも言えぬ感覚になるが、まぁ、そこはどうでもいい。
「さて、この少し余った暇な時間をどう過ごしますか」
「どうしましょうかね」
「ね」
イチャイチャしてもいいのだが、もしその最中に引っ越し屋さんが到着した場合に不完全燃焼で終わるのは嫌だ。するならしっかり最後までしておきたい。だから別の案を考えないといけないのだ。
「もう無難に今日の外食どこにするのかを決める時間でいっか」
「まぁ、それが一番効率的だろうな」
刻もこくりと首肯して私の意見に賛同してくれる。
さて、そう決まったなら話は早い。私は早速スマホを取り出すと近くのお店を探し出す。
候補としては近くの唐揚げのお店や、緑のイタリアンで有名なサイゼリヤ。あとはMのハンバーガーショップにラーメンもある。
意外と知らないお店があったことにも驚きつつ、私はこの選択肢を刻に提示してみた。
「んー、初日の晩ご飯がチェーン店ってのも何だか味気ないしなぁ」
「じゃあラーメンにする?」
「そうするかぁ。何となく豚骨が食べたい気分だし」
「ふふっ、何それ」
刻からの賛同も得られたところで丁度引っ越し屋さんから到着の連絡があった。
「来たみたいだし出よっか」
「だな」
そう言うと鍵を開け、最初の関門セキュリティ自動ドアをオープンさせると、私達は引っ越し屋さんを招き入れた。
✲✲✲
さすがプロ。一瞬で私達の荷物を運び込んだかと思えば一瞬で帰って行った。わずか20分の間に全てだ。
おかしいな?ここ五階なはずなのに。エレベーター使っても大変なはずなのに。
「よーしっ、じゃあ早速荷物を出して片付けてくよ!」
「おー」
まず手始めに勉強机や折りたたみ式のカラーボックスを取り出した。ここら辺先に出しておくことで服をしまう場所が明確になったり、何より細かな電化製品、例えばドライヤー等は机の上に置いておける。
次に割れ物系の食器。これは先に購入していたものでちゃんとプチプチに包まれていた。
私はプチプチの包装を取ると備え付けの食器棚にこれを並べていく。その間に刻は寝室となる部屋にカラーボックスを運び込んでいた。
役割分担のおかげか想像以上に作業は進む。
実際1時間もしない内にほとんどのダンボールは開け終わって片付けが済んでいた。
「ふぅー、ひとまず休憩」
「やったぁ……」
バタンと拳を突き上げながら刻は寝転がった。
倒れたくなるのも分からないでもない。事実、刻は私の代わりに力のいる作業を多くしてくれていたから、体に多く負担がかかっているのだ。
「お疲れ様」
しっかりと労いの言葉をかけつつ私は刻の頭を膝の上に載せる。俗に言う膝枕だ。
サラサラな黒い髪の毛を優しく撫でながら、私はもう一度「お疲れ様」と労う。
何度も言われるのが恥ずかしかったのかは分からないが、刻はほんのりと頬を赤くした。
「蒼もお疲れさん」
「うん」
「その、なんだ……後で俺も膝枕してやるよ」
唐突な提案に思わずキョトンとしてしまうものの、すぐに私は「ぷっ」と吹き出してありがとうと伝えた。
彼氏さんからの膝枕は貴重なのです。
第269話終わりましたね。今回はやっと部屋に入りました。次にご飯行きます。さっさとイチャつけと思いながら書いてます。どうも。笑
さてと次回は、15日です。お楽しみに!
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