第268話.くすぐりの提案
電車を使い新居の最寄りとなる灘駅まで向かう。
今日は土曜日なので比較的人は多い。
「まさか普段の学校帰りで使っていた駅が、新しい家からの最寄り駅になるとはね」
「まぁ、ちょっと変な感覚だよな」
「うん」
「ま、学校からも近いし、遅刻する確率が減って尚且つゆっくり寝れるって考えたらいい事づくめじゃないか?」
「だね」
そんな他愛もない話をしながら改札を抜けると、スマホでマップを開きながら新居となるマンションへと向かう。
鍵は予めお母さんから預かっているのでマンション着き次第、引っ越し屋さんと合流して部屋に荷物を運び込むという形だ。
「そういえば今日の晩ご飯はどうする?」
「特に考えてないけど、どうかしたか?」
首を傾げながら刻がそう聞いてくるので私は「ほら」と言いながら言葉を続けた。
「新しい冷蔵庫とかさ色んな家具とかはもう新しいお家には揃ってるよ?だけど道具があるだけで中身は無いからさ」
「分かった。つまり食べるものが今家に無いと」
「そういう事」
「確かにそれだと今日の晩ご飯どうするか考えないとな」
納得したように頷くので私も「そうそう、考えないと」と言って賛同する。
個人的にはスーパーで食材を買ってそれでご飯を作るのでもいいのだが、その前に部屋の荷物を片付けたりと中々な重労働が待ち構えているのも事実なわけで。つまり、時間的余裕と体力的余裕が残っているか正直なところなんとも言えないのだ。
それに関しては刻も同じようなところを感じるようで、先程から手を繋いでいない方の手を顎に当てながら「うむ」と悩んでいた。
「俺的には蒼さえ良ければ外食で済ませてもいいとは思うけど」
「うーん、私もそれが多分一番楽でいいかな」
「だよな」
「じゃあそうしよっか」
結局簡単に決めてしまったが、お互いに納得した上にさらに合理的な考え方でもあるのだ。誰もこの解答に文句は言わないだろうし、別に言う理由もない。
にしてもこれから新居に向かうというフレーズを何度も脳内リピートをしてはいるが、その度にすごくニヤニヤとしてしまいそうになる。まるで新婚の夫婦のようではないか。
刻に悟られないようにできるだけいつも通りの態度でいるつもりではあるが、いつバレてもおかしくはない。バレたら何があるという訳でもないのだが、もしこれで浮き足立ってワクワクしてるのが私だけだと分かってしまった場合は、少し寂しい思いをするから。
「いつも通り、いつも通り」
「何がいつも通りなんだ?」
「ふぇっ!?え、あーと、体の調子?」
「確かに体の調子はいつも通りが一番だな。だけどまた突然何で?」
「う、うーんと、昨日の夜健康についての番組をミタカラカナー?」
最後はなぜかカタコトになってしまい、刻にも訝しげな視線を送られた。だが、それ以上は特に追求して来ることはなく、代わりに「体調崩したら看病してやるから、何も気負うことなく普通に生活しとき」と珍しく関西弁のイントネーションでそう言われた。
「刻の関西弁だ」
「そりゃ関西人ですから」
当たり前でしょと言わんばかりにそう言うと、刻は「そう言う蒼も関西人だろ」とおでこをつついてくる。
つんつんとつつかれるのは少しくすぐったい。
瞼をキュッと閉じながら体を少し小さくしたのがいけなかったのだろうか、刻はつつくのをやめると「ごめん痛かったか?」と聞いてきた。
「ん?いや、くすぐったいだけだけど」
「あ、そうなのか。ならよかった」
「よくはないけどね?」
「じゃあ、無性に蒼の事くすぐりたくなった時はどうすればいい?」
なんだそのドSのような発言はと思ったが、スキンシップとしてのくすぐりなら、まぁ、許容範囲……なのかな。……いや、やはり時と場合、あとは程度にもよる。
「えっと、お家で2人きりの時に……どっちかと言うと夜の方でお願いします……」
自分でなんて事をお願いしてるのだろうかと思うと恥ずかしくなってくるが、恋人間にスキンシップは欠かせないのだ。これくらいで恥ずかしがっていては続くものも続かない。
刻は私の提案に一瞬驚いたものの、その後すぐに笑うと「分かった」と言って承諾してくれた。
……うぅ、やはり恥ずかしい。
第268話終わりましたね。早く甘いのが書きたいのですが?、と自分に尋ねつつまた1話を書き終えました。書き出すとね止まらないけど、投稿までの時間が残り30分とかだから話が進まないの。(要反省)
さてと次回は、13日です。お楽しみに!
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