第26話.昼食
十分間の船旅を終えて宮島から戻ってきた。時刻はお昼時なので今からご飯を店に食べに行くみたいだ。
「どこで昼ご飯食うんだ?」
前を歩く華山に聞いた。すると華山はこちらを振り返り、スマホで確認しながらこちらの問いに答えてくれる。
「ここの近くにアナゴの丼物系のお店があるみたいなので、そこにしようと思ってますよ」
「アナゴか」
アナゴと聞けば日曜の夜にやっている、某有名アニメのあの人しか思い浮かばない。
そう思いながら、意外とアナゴを食べる事を楽しみにしていた。聞くところによると、かなり美味いらしい。どうやら店によってはかなりの長時間待つことになるらしいし。
「あ、お店見えてきましたよ」
華山が突如そう言う。その声を聞いて近くに店らしきものがないか探した。すると約50メートル先に人が沢山並んでいる店が見えた。
その人数の多さに軽く衝撃を受けながらも、この空腹を満たすために我慢して並ぼうと決意する。
「ユウあの店に行くのー?」
そう言って店の方向を指さしながら、空宮は華山にそう聞いた。
「そうですよ。かなりの人気店らしいです」
「へー」
「何分くらい並ぶかな?」
凛が少し心配そうに聞いた。確かにそこは気にしておかないと予想以上に待った時に心が折れそうになってしまう。
「長い時だと2時間待ちとかもあるみたいですけど、多分1時間もあれば食べれると思いますよ?」
華山はそう言って俺達に待つ目安の時間を教えてくれた。
長くて2時間て、もし2時間待ちの場合時刻が2時になってしまうな。それは避けたい。
そんな事を思いながらも、やはりアナゴを食べるのを楽しみにしていた。
美味しいものの持つ魔力には打ち勝てないものなのだ。
✲✲✲
店内に入り、名前を呼ばれるのを待っていた。ちなみに呼ばれる時は先生の名前で呼ばれる。
まぁ、唯一の社会人だし、ここには一応合宿って名目で来ている訳だ。それが妥当だろう。
店内にある待合室的なこの場所には、テレビとクーラーがある。クーラーは作動こそしてはいるが、人が多すぎてあまり意味がなかった。仕方がないけれど。
(それよりも今は高校野球やってんだな。兵庫代表頑張ってくれよ、応援してるから)
そんな事を考えながらテレビを見ていると、後ろから華山が話しかけてきた。
「何を見てるんですか?」
「ん?あぁ、高校野球だよ」
「野球ですか」
「おう、プロ野球は俺見ないんだけど、高校野球は毎年見てんだよ。なんか、ザ・青春って感じがするだろ?」
「ふふっ、そうですね」
華山は微笑を浮かべながらそう言った。
「でも、青春なら恋愛とかの方が私はイメージがありますね」
華山はそう言う。確かにそれに関しては俺も同意見だ。高校=青春=恋愛みたいな感じだろうか。
中学の時までは俺もすぐに付き合えるんじゃね?などと思ってはいたが、決してそんなことは無かった。
そう他愛もない話をしながら、お腹を空かせて待つ。店の奥からは香ばしい香りが漂って来て、食欲をよりいっそう掻き立てた。
「5名でお待ちの華山様、どうぞお入りください」
今にも鳴りそうなそのお腹を少し押さえながら待っていたら、店員さんが先生の名前を呼んだ。
「じゃあ行きましょうか」
先生がそう言って俺達の先に立つ。
その後に着いて行き案内された席に着くと注文を始めた。注文と言ってもこの店はアナゴが売りだから、ほとんどの人はあなごめしを頼む。
「どれくらいの量にしようかな」
「悩みますね」
「だね」
女子達はどうやらメニューは決まったようで、頼む量を悩んでいるようだ。確かに多すぎても途中から辛くなるだけだけだ。
「刻くんはどれくらい食べるんだい?」
先に運ばれてきていた水を飲んでいると、隣に座っている凛が俺にそう話しかけてきた。
「俺は並盛だよ。多過ぎたら動きたくなくなるし」
「そうだよねぇ。じゃあ僕もそうしようかな」
「あ、じゃあ私もー」
俺と凛の話を聞いていたのか空宮も俺たちと同じ並盛にすると言った。この後の展開はなんとなく読める。多分華山と先生も並盛にするーとか言うんじゃねえの?
「では、私も並盛にしますね」
「じゃあ私は大盛りで」
(ほら2人共並盛……ん?今先生大盛りって言いませんでしたかね?気のせいかな)
俺は少し違和感を覚えつつも店員さんを呼んだ。
「ご注文お決まりでしょうか」
店員さんには先生が答えてくれた。
「はい。この子達に並盛四つと私が大盛りで」
「かしこまりました。並盛四つと大盛り一つですね。少々お待ち下さい」
店員さんはそう復唱すると店内の奥に去っていく。
と言うかさ、やっぱ気のせいじゃないじゃん。先生大盛りって言ってたよ。人は見かけによらないな。確かに先生は女の人にしたら身長あるかもしれないけど、それでも160後半あるかな?ぐらいだぞ。
俺は少し、と言うよりもかなりの驚きを覚えつつも平静を装ってスマホに意識を向ける。そうしておかないと顔に驚きが出てきそうだからな。
✲✲✲
15分くらい待つと店の奥からは、お盆に丼を五つ載せて運んで来る店員さんが出てきた。
「お待たせしました、並盛四つと大盛り一つです。ごゆっくりお楽しみください」
店員さんはそう言って一礼すると奥に戻っていく。
「さぁ食べようか!」
ウキウキした様子の声で先生はそう言った。今日で一番テンション高いんじゃないか?
俺はそう思いつつも腹が減っていたので箸を持ち食べる準備をした。
「頂きます」
俺達はそれぞれそう言うと食べ始める。
「んふぅ、おいひぃね」
「うん」
女子達は楽しそうにお喋りをしながら食べている。先生は頬に手を当てて舌鼓を打ちながら、美味しそうに食べていた。
さてと、俺も食べるか。この後は旅館に行かないといけないしな。さぁ食うぞー!
第26話終わりましたね。あなごめし美味しいですよ。家族と一緒に食べた時もぺろっと食べましたもん。また食べたいなぁ。
さてと、次回は14日です。お楽しみに!