第252話.耳元での囁き
刻の体に添わせるようにピタリと横に付きながら私は目を閉じた。部屋の中は電気を消してしまっているのでかなり暗い。カーテンの隙間から入る外の街灯と月明かりだけが、私達のいる部屋の中を照らしていた。
付き合う前から2人で寝ることは何度か既に経験していたためか、何もせずに添い寝をする分には緊張する事はかなりなくなってきた。
ただ、全く緊張することが無くなったわけではない。時折私が寝ていると勘違いした刻が頭を撫でてきたり、普段は言わないような甘い言葉を囁いたりするのだ。その時は起きていることがバレてはいけないという緊張感と単純に恥ずかしいという緊張感、というか羞恥心に襲われて悶えそうになっているのだ。
「刻さんや……」
「なんだい、蒼さん……」
「添い寝ってさ、どうしてかは分からないけどすごく落ち着くよね」
「うん。確かに落ち着くな」
ギュッと私の腕を抱きながら刻はそう呟く。
「蒼の体温も声も全部落ち着くな」
「私も刻の体温も声も好きだよ。もしかしたら私、耳元で囁かれたら心臓がドキドキしすぎて死んじゃうかも」
「それは困るなぁ」
「えへへ、でもたまには囁いてくれてもいいんだよ?」
「そう?」
少し考える素振りを刻は見せると「これにしよう」と零す。
何を決めたのかは分からないが、私は刻の言葉を待った。
隣で寝転ぶ刻はもぞもぞと動くと、私の頭を腕で包んだ。そして耳に息がかかるくらいに刻の顔が近づいたのを感じると、刻は「あー」と小さく発声練習のように声を出す。
その声だけでも私の体はゾクゾクと反応してしまった。が、当然それだけで終わるわけもなく刻はそこから本気を見せ始めた。
「蒼……」
「ふ、ひゃいっ!?」
耳元で名前を囁かれただけなのに体全体がもう熱い。
「蒼の事……愛してるよ……」
「は、はうぅ……」
低めのトーンで囁かれる声は私の鼓膜を心地よく震わせ、私の体をへにゃへにゃにしてしまった。
本当に私は刻の全てに弱い。声にも体温にもキスにも感触にも。全部私をへにゃへにゃにしてしまう。腕にも足にも力が入らなくなって、しばらく動けなかった。
「蒼どうだった?」
「……すごい……ドキドキした。ドキドキしすぎて……死んじゃいそう……」
「それはやっぱり困るな」
刻はそう言うと体を起こして顔を一瞬だけ近づけてきた。そして軽く唇を重ねていく。
1秒にも満たない僅かな時間。その一瞬にチュッという弾けるような音が部屋に響いた。
「隙あらばキスしていくつもりなのでどうぞよろしく」
「……私だって、隙あらばするもん」
「それは楽しみだな」
あはは、と笑いながら刻は私の体をギュッと抱きしめた。
第252話終わりましたね。いやー、もうすぐバレンタイン。僕は貰えるあてが部活のマネージャー以外いないという絶望的状況。泣きそうです笑
さてと次回は、9日です。お楽しみに!
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