第25話.神社
華山達の所に戻ると購入したかき氷を手渡す。先生に渡すと、先生がカバンから財布を取り出そうとしたが、俺はそれを軽く手で制す。
確かに立場上、金を払っておきたいのだろうが、ここまで来るのに先生がいないと俺達は何も出来なかったのだ。ちょっとぐらいこういう事があっても、許されるだろう。いや、むしろ許してあげて。
そう思いながら、自分のかき氷を食べる。いきなり食べたせいだろうか、頭と喉が痛い。昔からこうなるものだと思って食べるから気にしてなかったが、こうならない対処法とかないのか。
「ふむぅー」
真剣にかき氷を食べた時に頭が痛くならない方法を考えていると、隣から何やら苦しそうに悶える声が聞こえてくる。
「凛どうした?」
隣にいる凛に聞いてみると凛は頭に手を当てて唸っていた。
「かき氷を一気に食べたらこうなったぁ……」
顔をしかめている様子を見る限りかなり痛そうだ。
「大丈夫か?」
「多分大丈夫……だと思いたい」
凛の声は最後の方には消えかかっていた。多分俺の想像しているよりダメージが大きかったのだろう。
フェリーに乗る前に自販機で買っておいた水を俺は凛に渡した。
「何これ?」
「水だけど」
透明なペットボトルを頭上に掲げながらそう言ったが、凛は頭上にクエスチョンマークを浮かべて小首を傾げたままだ。
「そうじゃなくって、あの、これ僕にくれるの?」
「あぁ、やるよ。多分飲めば少しは頭痛いのも収まるだろ?」
「まぁ、確かに」
そう言って凛は俺から水を受け取った。
「刻くんありがとね」
凛がそういった時の姿はCMとかでも使われてもいいのではないのか、と思うぐらい美人な姿だった。
片手に水の入ったペットボトルを持って、キャップの方を少し頬に当ててる感じ。それで風が吹いて髪がなびけば完璧だ。
おそらくそこら辺の女優よりも余裕で綺麗なのだ。
✲✲✲
かき氷を食べた後、厳島神社の方へ向かい始めた。
神社の入口に着いてみると分かるが、結構な人数の人がいる。この人数になってくると、どうしても密集状態になるので異様なぐらいに暑い。
気持ち程度にミストが撒布されてはいるがそれでもやはり暑い。
「暑いね」
「ですね」
「もっと涼しくなーれー」
女子達はこんな感じで喋っていた。空宮に関してはこの現状から現実逃避している。
タオルを首にかけながらふとある事を思い出した。
「あれ?そういえば先生はどこに行った?」
そう、先程から先生の姿が見えないのだ。多分かき氷を食べ終わって移動し始めたあたりからいないんだよな。
「あー、先生ならさっき、「暑いから私は行かなーい」って言ってたよ」
「そう言えばそんな事も言ってたね」
あの先生は何やってんだよ。せっかくここまで来たんだから見て行こうよ。
少し苦笑いを浮かべながら、神社の本殿に入る受付を済ませた。中に入って行くと本殿内は意外と綺麗だ。いや、綺麗と言うよりも神々しさを感じるものがある。まぁ、当たり前か。神様のいる場所なわけだし。
「ほー」
凛はイギリスにはこういった日本の建物が全くなかった影響なのか、物珍しそうに見ている。
「気に入ったか?」
凛に聞いてみた。すると凛はこちらを向いて頷く。
「気に入ったも何も、僕の大好きな部類に入るよ!これが何百年も前に建てられたものだなんて信じられないしさ。とっても興味深いしね」
「そうか、それなら良かった」
本殿をさらに進むと、鳥居が正面に見えるところに着いた。
「フェリーから見たときもすごいと思ったけど、ここから見たのも凄いね」
空宮がそう言う。そして華山もそれに賛同したようだ。
「きっと昔の人はこの神々しさを大切にしたんでしょうね。きっと夕方はとても綺麗に見えますよ」
「だろうな」
俺も華山の意見に賛成だ。大体こういう所って、時間の経過による太陽の動きとかもしっかり考えられて建てられてるんだよな。
軽く伸びをしていると華山がまた口を開いた。
「大鳥居の近くに行ってみますか?」
「行けるのか?」
「はい、満潮時でなければ行けますよ。ちょうど今の時間は海の水も引いているので行けますね」
「そうか」
本殿から出ると大鳥居の方へと向かう。
(ここでついに役に立つぜカメラさんよ)
まぁ、ここに来た目的ってPhotoClubの合宿だしな。カメラは絶対に使わないとならん。
大鳥居の下に着くと、それぞれ写真を撮り始めた。
そうだな。大鳥居の中に本殿を納める感じで撮ってみるか。実際いざ撮ってみると、意外と上手くいった。多分撮ることに慣れてきたのだろう。物と物との距離感というかそんな感じの事がフィーリングで分かるようになってきている。
時刻は昼。
そろそろ飯でも食うかな。
✲✲✲
フェリー乗り場へ行き、フェリーに乗り込む。また10分間の船旅だ。神社からフェリー乗り場に向かうまでの間に色々と写真を撮ったが、結構俺はここ気に入ったぞ。何だか日本って感じがして好きだ。
カメラのデータを眺めているとフェリーが動き出した。
「刻くん汗すごいね」
後ろから声をかけられた。くん付けで俺の事を呼んでいるところをみると、声の主はおそらく凛なのだろう。
「暑いからな」
「そうだね」
そう言ったかと思えば、首からかけているタオルを取ってしまった。
「はい、刻くーん前向いて」
俺は言われた通りにする。すると凛が取った俺のタオルで俺の顔を拭いてくる。
「え、ちょ……何するんだよ!?」
俺は突然の事に思わず驚いてしまった。だって仕方がないだろう。こんな美人ハーフに顔拭かれたら誰でも驚く。
「んー?刻くんの汗を拭いたげてるだけだよー」
「そ、それは分かるけど」
「なら、いいじゃない?」
「そういうものでもない気がするんだが」
「まぁ、気にしない気にしない」
凛はそう言いながらまた俺の顔を拭いてきた。何だか恥ずかしいんだけど。俺がそう思っていたらタオルが俺の顔から離れていった。
「はい完璧」
凛は両手を合わせてそう言った。
「お、おう。ありがとな」
「いえいえ。僕が勝手にしただけだからお礼はいいよ」
そう言うと凛はデッキの方へと向かっていった。
俺の顔が暑いのはきっとこの気温のせいなのだろう。最近は耳にまで熱がこもるようだ。それともあれかな、お腹が減ったからかな?早くご飯食べたい。
第25話終わりましたね。作者は実際に厳島神社に行ったことがあるんですけど、何せ記憶が朧気なんですよねぇ。ただ覚えているのはやたら暑かったという事と大鳥居すげー!って言うことだけですね。
さてと次回は12日です。お楽しみに!