第244話.吐露
「どうして……ここに」
「はぁ……。そんなの凛が戻ってこなかったからに決まってるでしょ?」
「でも、もう終業式は始まって……」
僕の声を聞きながら蒼ちゃんはゆっくりと僕の隣に腰かけた。
「それはお腹が痛いですって羽峡先生に嘘ついて出てきた。まぁ、アイコンタクトもしてるから多分理由は分かってると思うけどね」
あまりにもリスキーな選択。
もしそのアイコンタクトの意図が伝わっていなかった場合100パーセント怒られるやつだ。
「それなら、早く戻らないと!」
ずいっと勢いよく立ち上がり僕がそう言えば、蒼ちゃんはかなり冷静に、そして落ち着きを払いながら喋り始めた。
「そんな危うい"から元気"でなんとか乗り切ろうとしてる状態のままみんなの所に戻るの?」
「……それは」
「それに、今の凛だと刻とまともに顔を合わせるのも難しいでしょ?」
「あはは……、やっぱり聞いた?刻くんから」
「当たり前でしょ」
蒼ちゃんは胸に手を当てながら自信ありげに「彼女ですから!」と僕に告げる。
これで僕の可能性は消えた。刻くんが彼女だと言う子と、私が刻くんの彼女だと言う子が一致してしまったのだ。もう覆せない。
へなへなと力無くまた座り込むと大きく息を吐いた。
「聞いたからここにいると思うんだけどさ、僕ねさっき刻くんに振られちゃった」
返事は無い。
それでも構わずに続ける。
「心からの告白をしたよ。僕は刻くんの目をしっかりと見て、刻くんも僕の目を見てくれていて。多分シチュエーションとしては完璧。まぁ、ダメな点があったとすればそれは蒼ちゃんと付き合ったって報告を受けた後だった事かな」
「本当はずっと前にも告白まがいの事を僕は何度か刻くんにしてた。だけど、どれも面と向かって伝える事はなかった」
「多分、怖かったんだろうね。普段は飄々と生きてる自覚はあるけどさ、それでも好きな人に告白するって事にだけはいつもの冗談みたいにすることが出来なかった。あれだけ時間があって、あれだけチャンスがあって」
「へへ……何でしなかったんだろうって、後悔が残るよ……」
そこまで言うと蒼ちゃんは僕の頭を不意に撫でてきた。
「私は刻に頭を撫でられるのが好き。それで刻は人の頭を撫でてあげる事が好き。だから、凛も一回くらいは撫でられた事あるでしょ?」
「うん」
「ならさ、この手は刻のみたいにゴツゴツはしてないし撫で方も違うけどさ、刻のだと思って全部吐き出さない?今までの気持ちを何もかも」
「それはどういう……」
「だから、こうでもしないと今の凛は絶対に刻と距離を取っちゃうの。でもそれは私が嫌。嫌な空気が部室に流れるのも、刻と凛の笑い声が同時に聞こえないのも」
そこまで言うと蒼ちゃんはどこか吹っ切れたように割と明るい声でこう告げた。
「つまり、これは私の自分勝手なわがまま。刻とは恋人でいたいし、凛とも親友でいたい。刻と凛が親友同士であって欲しい。そんな私のわがまま。だから、気持ちを全部吐き出して」
「……確かにわがままさんだね」
「ふふっ」と笑いながらそう言うと蒼ちゃんは少しだけ頬を赤く染めて「だから、わがままだって言ったじゃん」と言って少し照れる。
「話してもいいの?」
「話して欲しいの」
「分かった。多分泣くけどそれでもいい?」
「それでもいいよ」
蒼ちゃんの言葉を頼もしく思いながら私はぽつりぽつりと言葉を紡ぎ出した。
幼少期の出会いと別れ。
向こうに行ってから刻くんと会えない寂しさがずっと残っていたものだと思っていただけなのに、友達ができて寂しくないはずなのに消えない刻くんの像があった話。
何年も経って中学3年生になっても消えてなかった像の話。そしてそれがきっと僕の中にあった刻くんへの憧れた気持ちだったという事も。
「12年間だよ。12年間も知らない間にずっと心の奥深くで想い続けてた。想い続けて想い続けて、それでやっと会えた。あの頃の可愛い感じだった僕の知ってる刻くんは、久しぶりに見たら大きくなっていて、すごく大人びてた」
「転校して初日はすごく緊張してた。初恋の人と12年ぶりにあって、しかも席が隣。いきなり心臓は破裂しそうだし、なによりかっこいいんだもん。本当に死んじゃうかと思ってた」
第244話終わりましたね。まだ次回にこの話は続きますのでご了承くださいm(*_ _)m。
さてと次回は、24日です。お楽しみに!
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