第242話.ケジメ
「凛ちょっといいか?」
「ん、どうしたんだい?」
首をこてんと傾けると凛は後ろで手を組みながら「場所変えて話した方がいい?」と聞いてくれた。多分真面目な話だという事を感じ取ってくれたのだろう。
「出来れば頼む」
「分かった。終業式まで時間あるし、テラスで話そっか」
「分かった」
教室の後方の扉から出ると最寄りの階段を使って三階に降り、そして渡り廊下の上に位置するテラスにへと向かった。
テラスには俺と凛以外に人はおらず非常に閑散としている。
「うー、さすがにここは寒いね」
自身の体を抱きしめながら凛はブルりと身震いをした。
確かにここは少し高いので風が吹いた時に遮ってくれるものが非常に少ない。自分の指も冷たい風に吹き晒されたせいで赤くなっている。
「摩擦熱〜」
手を擦り合わせ時々凛は「はぁ」と息を手に吐きかけている。
「効果あるのかそれ?」
「やらないよりかはマシだよ」
「そりゃそうだな」
「刻くんもしたら?意外と暖かいよ」
凛を見習って俺も乾燥した手を擦り合わせてみる。
確かに暖かい……のか?
少し疑問に思いながらも、俺は自分自身に「もう時間稼ぎはいいだろ」と心の中で話しかけた。
ちゃんとケジメをつけると決めたのだ。男なら決めた事は最後までやり切れ。
「なぁ、凛。その、話の事なんだけど……」
「ん、あぁ、そうだったね。一体何の話なの?」
風に吹かれて少し顔にかかったブロンドヘアを耳にかけながら凛はこちらを見た。
今から俺は間違いなく凛を傷つけてしまう。しかもそれはこっちの都合で勝手にだ。
けれど、言わない方が後々もっと大きな傷をつけることになる。深くて一生残るような大きな傷。だから、少しでも浅くて済むように、俺は寒さのせいか緊張のせいかで震える唇を開きながら凛に言葉を告げた。
「俺は……」
「うん」
「その……えっと……」
言葉がつっかえて喉から出てこない。視界が少しぶれる。落ち着けていない証拠だ。
「刻くん。ゆっくりでいいよ?」
「あ、あぁ。すまん」
優しい声でそう言われると少しだけ気持ちが落ち着いた。だが、緊張が消えたわけではない。心臓はまだ体の中で鳴り響いている。
「ふぅ……」
息を一つ吐くと俺は意を決する。
俺の纏う空気が変わったのだろうか。つられる様にして凛も背筋を伸ばした。
「俺は……空宮と付き合う事にしました」
「……そっか」
俯きがちになりながら凛は絞り出すような声でそう呟いた。「そっか」と呟いた凛の声が耳に残る。
「その……ごめ」
「待って。その先はまだ言わないで」
凛は手を前に出しながら俺の言葉を遮った。震える凛の手を見ると俺も自然と言葉を噤む。
「僕が先に喋る。だから、刻くんは少しだけ黙ってて」
「わ、分かった」
「すーはー」と凛は深呼吸をするとこちらを見据えてきた。
真剣な眼差しを向けられると自然とこちらの背筋も伸びる。
「じゃあ、ここからは僕のターン」
「僕は、凛は、君、刻くんの事が好きです。ずっとずっと昔から、最後に離れたあの日からずっと好きです。だから、付き合ってください」
凛の気持ちにはもう全部気付いていた。いや、あの日に凛から遠回しに言われるよりも前からすでに何となく勘づいていた。だけど、気付かないフリをしていた。
けれど、もうそんな言い訳はできない。それに言い訳もしない。ちゃんと答えを出すんだ。
「ありがとう。だけど、ごめんなさい」
誠心誠意の気持ちを込めて頭を下げてそう言った。
「俺には誰よりも大切な人がいて、俺はその人のために生きたいと思ってる。だから、凛とは付き合えない。ごめん」
「……ふふっ、もういいよ。刻くん」
その声を聞いてから俺はゆっくり頭を上げた。目の前にはスッキリした表情の凛が立っている。
「ありがとうね。ちゃんと振ってくれて。おかげでスッキリしたよ」
「そう……なのか?」
「うん。そうだよ!……それでね、こんな我儘な告白の後にお願いをするのもなんだけどさ、これからは親友って事で僕との関係を続けてくれないかな?」
「そ、それはもちろんっ!」
「ありがと」
今まで見た中で一番大人びた笑顔を浮かべながら凛は「刻くんは先戻ってていいよ」と言った。
「いや、でも」
「いいからほら。蒼ちゃんにも説明しないといけないでしょ?だから、さっさと戻った戻った!」
「お、おう」
そう言って送り出されると俺は校舎の中に戻る。
ちらりと後ろを振り返ってみるが凛は手をヒラヒラと振っているだけだ。
第242話終わりましたね。ケジメをつけることはひとつのピリオドを打つことと同義です。つまりはとても大切な事。綺麗でも汚くても、ピリオドは大切なのです。
さてと次回は、20日です。お楽しみに!
それと「面白い!」「続きが気になる!」という方はぜひブックマークと下の☆からポイントの方をお願いしますね!