第23話.新幹線
改札を抜けて新幹線の止まるホームまで向かった。ホームには電車に乗った時と同じく、家族連れが多い。確かに旅行なんかの長距離の移動となると、車か新幹線、飛行機の方が色々と便利だろう。
「まーだかなっ、まーだかなっ!」
凛は子どものようにわくわくしながら新幹線を待っている。
ホームの壁にもたれながら、スマホをいじって時間を潰していた。あと5分ほどで新幹線は来るらしい。
「刻くん!新幹線はあと何分で来るのかなっ!」
「あと5分」
「そっかそっか〜」
俺に話しかけてきたかと思えば、笑顔になってまた俺から去っていく。
「鏡坂くん」
「どうした?」
「いえ、鏡坂くんは広島で宮島以外に行きたい所が、あるのか聞きたいかなと思いまして」
「あー、いや、俺は特に無いぞ」
「分かりました」
華山は俺に笑顔を見せると空宮の方へ行った。
(宮島以外に行きたいとこって、いきなり変更とかできるもんなのか?)
そこに疑問を抱きつつも、気にせずにスマホをまた触る。
しばらくするとホームのスピーカーから、ジングルが流れてきた。どうやら新幹線が到着したらしい。
「刻ー、乗るよー」
「おう」
空宮に呼ばれ俺も新幹線に乗る。そして華山の方を見るとなぜか必死に先生の事を押していた。
「お、お姉ちゃん……起きて自分で歩いてっ……」
「ふあぁ……有理ちゃんごめんね」
「ふぅ……」
どうやら、先生が寝ていたらしい。先生という職業がどれだけ忙しいのかは分からないが、あの様子を見る限り楽ではないのだろう。
(よくブラックとか聞くしな。その割には給料は安いっていう)
全員新幹線に乗り込むと指定席に座り込む。席には窓側から先生・華山・凛、通路を挟んで空宮・俺という感じだ。
広島までは1時間ちょっとで着くらしい。ちなみに先生は席に座った瞬間アイマスクを着けて寝始めた。
「ほぉ、これが新幹線の中!」
凛は先程からテンションが上がりっぱなしだ。何でも凛はイギリスにいた時、新幹線に乗った事がなかったらしく、人生初の搭乗らしい。
凛の事について考えていたら、隣からガサゴソと音が聞こえてきた。
「ポッキー食べる?」
どうやら、空宮がお菓子をカバンの中から取り出していたらしい。
「食べるー」
「ありがとうございます」
凛と華山は礼を言うと、空宮の手の中にあるポッキーの箱から一本ずつ取りだして食べた。
その様子を見た後、イヤホンを耳につけて音楽を聴く。すると俺の隣から肩を叩く人がいた。まぁ、空宮しかいないんだが。
反対側から叩かれたのだとしたら、それは窓と俺との間に人がいることになるのだ。しかし、その隙間は10センチもないわけであって。
(つまりその場合は確実に幽霊くんがいます!)
イヤホンを片方だけ外すと空宮の方を見た。
「どうした?」
そう聞くと、空宮は手に持ったポッキーの箱をこちらに向けてこう聞いてきた。
「刻もいる?」
「あぁ、じゃあ一本貰うわ。ありがとうな」
「いいよー」
空宮からポッキーを一本貰い食べると、またイヤホンを耳につけて寝に入る。今日は少し早起きしすぎた。
俺はこくりこくりと船を漕いだ後、パタリと意識が飛ぶ。
✲✲✲
「……て」
「……き?……てよ」
朧気な意識の中でリップ音が聞こえた。俺の額には熱のこもった柔らかい何かが、リップ音とともに当たった気がする。
「んぁ?」
目を覚ますと辺りを見渡す。席に座っているのは俺だけで、空宮たちは席の上にある荷物置きに置いた荷物を取っていた。俺がその様子を見ていると、それに気付いた空宮が俺に声をかけてきた。
「お?刻、や〜っと起きた」
「俺どんくらい寝てた?」
「多分最初から最後まで全部寝てたよ」
「マジか」
もったいない事したな。新幹線に乗る機会あんま無いから起きときたかった。
そんな感じの事を考えつつも、立ち上がって空宮たちの手伝いをする。
「お、刻ありがとうね」
「あぁ、これぐらい構わん。てか、手伝わないといかんだろう。女子だけに働かせる訳にはいかないし」
「そう?」
「そうなんだよ」
そう言って荷物を下ろして新幹線が駅に止まるのを待った。
「あと3分で着くらしいよ〜」
「了解」
女子達は駅に着くまでの数分間も雑談を楽しんでいた。かくいう俺は1人席に座ってスマホを眺める。
しばらくすると車内には広島に着く事を知らせるアナウンスが流れる。
「やっと着いたか」
そう独り言を呟いて席を立ち上がる。すると、凛たちも話をやめてすぐに新幹線を降りれるように準備していた。
駅に着くと俺達は次々と降りていく。するとそれにつられるかのように、ほかの乗客もどんどん降りてくる。
改札を抜けて広島駅の外に出た。
「広島に着いたぞー!」
「ぞー!」
凛がそう言うと空宮もそれに乗っかかる形で声を出す。恥ずかしいからやめなさい。
俺はそう思いつつも、その2人の様子を微笑ましく思っていた。
第23話終わりました。新幹線に作者は1回しか乗ったことがありません。つまりその1回の記憶を頼りにこの話を書いているのです!絶対現実と違うところだらけだぁ。
さてと、次回は8日です。お楽しみに!