第227話.大人に
真隣。本当に真隣。
私のすぐ隣には同じベッドを共有して横になっている刻がいる。片手は繋がれていて暖かい。だけど、今はそんな事などよりも心臓の鼓動の激しさに頭を悩ませた。
ドクドクドクと身体の隅々にまで血液を送り続けていて、次第に体温も上がってくる。
刻に「襲われても文句を言うなよ」と言われてからなおさら身体が熱くなった気もした。
(襲うって……やっぱりエッチな方面でってことなのかな?)
そんな事を考えて恥ずかしくなりながら、私は隣に寝転ぶ刻の方を見てみる。刻は私の方に背中を向けて寝ていた。
(何か思ってたのと違う)
そう思いながら私は人差し指を立てて刻の背中を撫でた。すると、少しピクりと刻の身体は揺れる。
「な、何だいきなり?」
「いーや?暇だなぁって思っただけだよ」
「暇って……寝るだけなんだから暇も何も無いだろ?」
「そうだけどさ……刻が襲って来ると思ってたから、何されるのかなって気になってたんだよ?」
「……何もしねぇよ」
「襲うのに?」
そう意地悪に聞いてみると、刻は私の方をぐるりと身体を回して向いた。至近距離で刻と目が合う。
何だか今の刻の中には本能と理性が同時に存在している気がする。
繋がれた手はギュッと先程よりも強く握りしめられた。そして、もう片方の空いている手で刻は私の後頭部を支えると刻の胸元に近づけられた。
おでこが刻の胸に当たっているのでそこから心音が聞こえてくる。ドクドクと、私よりも大きくて早い。
というか刻に抱きしめられているこの状態はなかなかやばい。刻だけじゃなくて私の心臓もすでに破裂しそうなのだ。なのに、追い打ちをかけるようにするこの動作は少しずるい。
「ね、ねぇ刻?」
私の事を抱きしめてから一言も喋らないので、少し心配になりながら私は刻にそう聞いた。
しかし、それに対して何か返答があるわけではない。強いて言うなら、返答の代わりに先程よりも強く抱きしめられたことだろうか。
「……ドキドキしてるよ?」
「……そんな事さっきのソファで分かってただろ。ずっと、ずっと空宮のせいでバクバクしてんのが収まらないんだよ」
「そ、それを言うなら私だって……ドキドキしっぱなしだよ?それも刻のせいで」
お互いがお互いに影響を与え過ぎて、どちらも段々とこの状況に酔い始めた。
私は空いている手を刻の腰に手を回すと、身体全体を密着させる。
熱い。
少しお互いの呼吸が荒くなってきた。電気の消えた暗い部屋には二つの呼吸音が響く。
このままの勢いで刻に好きだと伝えてしまいそうだ。だけど、それだけはダメ。ちゃんと、ちゃんとお互いに冷静になった時に言わないと告白に意味は無くなってしまう。
だけど、今はこの空気感を楽しみたい。
子供と大人の本当に境目。
子供のスキンシップから大人のスキンシップへ。
「……なぁ空宮」
「……なぁに?」
「……このまま行くと、本当で襲いそうなんだけど」
刻からそう告げられた言葉。
それのせいで私の心臓はまた加速し始めた。
「うぅ……本当に、襲っちゃうの?」
「うん……このまま行けば」
「そっか……」
私はそう言うと刻から少しだけ距離を取った。
当然、刻は少し困惑した表情を浮べる。
「まだ、ダメ……かな?」
「まだ?」
「うん。でも、その時が来たら……ね?」
そう言って笑うと刻も「はぁ」とため息をついた後に「だな」と言って微笑んだ。
私はいずれその時を、その機会を作る。それがいつなのかは知らないし、可能なのかは分からない。だけど、私は私なりに頑張るのだ。
(ファイトだよ。私)
第227話終わりましたね。はてさて、恋愛とは浅い関係ではなく、深い関係が生じるものですが、皆様はそういった人がいますか?僕にはいません!(前にも同じこと書いた気がする)
さてと次回は、21日です。お楽しみに!
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