第218話.ペンギン
目の前に立つのは高くそびえ立つスカイツリー。日本にある建造物で一番高いとだけあって、さすがの存在感だ。
「ここだね」
「だな。どうする?先にスカイツリーを登るか、水族館に行くか」
「うーん、そうだね。先に登ろっか」
「了解」
そう返すと俺は空宮の手を引いた。
四階まで登ると、チケットを購入して展望台にエレベーターで向かう。当然だが俺達以外にも多くの人がおり、エレベーターの人口密度は非常に高かった。そのせいか、空宮と俺の距離は必然的に近くなる。
「ご、ごめん……」
「いや、構わん」
他の人にどうしても押されてしまうので、空宮はギュウギュウと俺の体に思い切り接触していた。
空宮には構わないと言ったが、俺は平静を保つので精一杯だ。なぜなら、先程から俺の鳩尾の辺りに空宮の胸が当たっているのだ。
コートを脱いだせいか微かにブラの感触まで伝わってきて、非常にいたたまれない気持ちになる。
本当はもう少し距離をとる方がいいのだが、これに関してはどうしようもないし。一体どうしたものか。
「刻の心臓バクバク鳴ってるね」
「え?」
「あれ?気付いてなかった?」
すぐ近くでこてんと首を傾けられながら、上目遣いでそう言われた。
「き……気付いてなかった」
「ふーん。ま、ちゃんと自分の体の事は分かっておいた方がいいんじゃない?」
「俺はそのセリフを空宮に言われるのか」
「えへ」
ペロッと可愛らしく舌を出しながら空宮は笑った。そんな顔を見せられると、何でも許してしまいそうになる。
相変わらず俺は空宮に弱くて甘い。
✲✲✲
「やっと着いたよ」
「だな。思ったよりも時間がかかった」
「ね。それよりもほら!見て見て!すっごい高いよ!」
あからさまにテンションを上げながら、空宮は目をキラキラとさせてそう言った。
「本当だな」
「刻もこっちに来て見てみなよ!そんな所よりももっとよく見えるよ!」
「いや、遠慮する」
「どうして?そんなにガラスから離れてたら遠くの景色しか見えなくない?」
「いや、俺はそれでも案外満足してる」
などと、色々言っているが、結論から言えばそうだ。俺は高所恐怖症なのだ。この前はポートタワーに登れていたが、あれはそこまで高くなかったから平気だっただけであって、ここは単純計算をすればポートタワーの二、三倍は高さがあるのだ。さすがに無理がある。
しかし、そんな事は露ほども知らない空宮。俺の背中を頑張って押して、ガラスの方に近づけようとしている。
「んん……っはぁ!ぜっんぜん動かない!?」
「多少は鍛えてますから」
「何の自慢!?」
「まぁ、何だ。俺はここからで本当に満足だからさ、空宮はもっと見てきてもいいぞ?」
そう言うと少し寂しそうな顔をされる。
「私、刻と一緒に見たい……」
「でもなぁ」
「……どうしても、ダメ?」
また上目遣いをしながらそう言われた。
心臓が一度大きく膨らんだような錯覚を覚える。そして、その膨らんだ筋肉のポンプが一気に小さくなると、俺の体が熱くなっていった。
「……分かった」
小さくそう返すと、俺は空宮の手を取りガラスに近づく。
やはり、そこからの景色は高くてかなり怖いが、隣にいる空宮の笑顔を見るとそんな感情は吹き飛んでしまった。
✲✲✲
水族館ではペンギンが悠々と泳いでいる。その様子を空宮はアクリル板に張り付きながら眺めていた。
水を通して空宮に当たる青い光は、神秘的な雰囲気を空宮に纏わせた。
「可愛い……」
ボソリとそう言いながらじっと空宮は眺め続ける。
「ちょっとトイレに行ってくるわ」
「うん、行ってらっしゃい」
俺はそう言ってその場を離れると、トイレには行かずにお土産コーナーに向かう。
少しぐるりと見渡せばすぐに目当てのものが目に入ってきた。それを手に取ると俺は即座にレジに並ぶ。袋に入れてもらい、少し緩んだ頬を元に戻しながら俺は空宮の元に帰った。
ペンギンの場所に戻ってくると、相変わらずアクリル板に張り付いている。
そこまで熱中するものなのかと思いながら、俺はトントンっと空宮の肩を叩いた。
くるりとポニーテールを揺らしながら空宮は俺の方を向く。
「あ、おかえりなさい」
「おう」
そう返すと空宮は俺の手に明らかに先程まで持っていなかった物が持たれている事に気が付いた様だ。
「何か買ったの?」
「そうだよ。ま、空宮にプレゼントするやつなんだけど」
「へ?私に?」
少し不思議そうにしながら空宮は俺の手から袋を受け取り、そして中身を見た。
「あっ、これ」
「さっきからずっと見てたからな」
「ペンギンのぬいぐるみだぁ!」
そう言ってからこちらを向くと空宮は大きな瞳を細くさせながら笑顔を浮かべて、こう言った。
「ありがと!」
第218話終わりましたね。さて次回は次のホテルに行きますよ!そこで何があるのかはまだ分かりませんけどね〜。
さてと次回は3日です。お楽しみに!
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