第214話.修学旅行2日目
「無理ぃ……」
ボフンッと一気に枕に顔を埋める。顔も体も何もかも、全身のいたる所が熱い。
私はどうやら刻の笑顔に極端に弱いようだ。おしゃべりの中に出てくる笑顔にはまだ普通の態度を取れる。だけど、ただ私にだけ向けられる笑顔にはどうしても胸の高鳴りと、顔がニヤけてしまうのを止められない。
「どうしたっ!?熱か!?」
急に倒れてしまったせいか、刻は焦りながらそう聞いてきた。どうやら相当心配させてしまったらしい。
「いや……何でもない」
「本当か?」
「うん、本当」
そう返すと私はムクリと起き上がる。
すぐには刻の顔を見ることは出来ないので、私は顔を直接見られないようにそっぽを向いたまま会話を再開した。
もし見てしまったら、それこそ熱が出てしまいそう。
「刻はどこか行きたいとこある?私に付き合わせるばっかりじゃ申し訳ないし」
「俺か?そうだな……どこだろ」
少し間を空けてから、刻は結局何も思いつかなかったようでそう言った。
特に無いのならばそれはそれで別にいいのだが、これだと本当に刻を私に付き合わせているだけになってしまう。それはなんだか申し訳ない気がしてならない。
「うーん、そっかぁ」
「うん。ま、結論空宮の行きたい所が俺の行きたい所ってことで」
雑に結論付けると刻は「よいしょっ」と言って立ち上がった。
程よく顔が元の色に戻ったのを何となく感覚で確認すると、私は刻の方に向き直る。
特につっこまれることは無かったが、一対一の会話の時に片方が全く違う方向を向いているのはどうかとさすがに思う。今回は私がそっぽを向いていたわけだが、何か言われることを覚悟の上でそうしていたわけだから、逆に見当違いすぎて驚きだ。
「よし、そろそろ出るか」
「あ、うん」
そうとだけ返すとたくさんの荷物を持って立ち上がった。刻がいくつか持ってくれているため、私は非常に楽で助かる。
ホテルを出る際に東先生から色々と許可を取り終えると、私達はまずそれなりの大きさの荷物を入れることの出来るロッカーを探した。
そして、見つけたロッカーに荷物をしまうと、私達は軽い荷物だけになり非常に動きやすくなった。
荷物は予約しておいたホテルに向かう前に、また取りに帰ってくる。
「よし、じゃあ、本格的に東京観光と行くか」
自然に刻は私の方に手を差し出してきた。一瞬その行動に驚きつつも、私はしっかりと刻のその手を握る。
―――暖かい。
手から少しだけ感じる刻の脈拍。トクトクというゆったりとしたリズムは、ほんの少しだけ早くなった気がした。
✲✲✲
渋谷のスクランブル交差点は、毎朝やっている情報番組の天気予報のコーナーにて嫌という程見ている。だけど、それはあくまで画面越しでの話。実物を見てみると、また違った感覚が得られた。
「ビルとビルの間隔狭っ!というか人多っ!?」
私たちの住む神戸は間違いなく都会と呼ばれる部類に入る。それに、三ノ宮や神戸駅周辺といった、神戸の中でもかなり発展した地域には多くの人が常にいて、人が多い事にも慣れているつもりだった。だけど、ここは別格だ。
この狭い範囲にこの人の数。人口密度がいくらなんでも高すぎだ。三ノ宮のセンター街でもこんなに人はいない。
「確かに人多いな」
「だよね?多い多いとは常々思ってはいたけど、ここまでとは」
感嘆の声を少し漏らしながら、私は調べておいたパンケーキのお店までのルートをスマホに出した。隣を歩く刻は方向音痴なので、こういう時はあまり頼りにはならない。なのでここでは私がしっかりとしなければならないのだ。
本当は刻にリードしてもらえる方が嬉しいのだけど、でも、人には得意不得意があるから。無理にそれを押し付けるつもりは無い。
しばらく歩くと目当てだったパンケーキ屋さんが見えてきた。白い外観で非常に清潔感溢れている。店舗前にある小さな黒板のメニュー表と観葉植物がいい味を出して、一層オシャレに見えた。
「ここだね」
そう言いながら扉を押して店内に入った。
出迎えるのは心地のいいBGMと、黒いエプロンを着たオシャレな女性店員さん達の声。
入ってすぐに何名か聞かれると、即座に席に案内された。
着ていたコートとマフラーを外して椅子にかけると、私は刻の顔を見ながら何を頼むのか聞いてみる。
「そうだな。無難にメープルシロップのやつでいいかな。間違いなく当たりなわけだし」
「そうだよねぇ。だけど、それだとシンプル過ぎて少しつまんないから、私はフルーツとホイップクリーム盛り沢山のパンケーキにするね!」
「おう、好きなやつにしろ〜」
そんな会話を交わしながら店員さんに注文を済ませると、私達は店内に流れるBGMに耳を傾けた。
第214話終わりましたね。はい、ここ最近の僕はなぜか深夜の1時まで起きることができません。無駄に健康体になりつつあります。何でだろ?
さてと次回は、25日です。お楽しみに!
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