表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

211/700

第211話.バイキング

 今日着る予定の服を選び一通り着終えると、私は扉の隙間からひょこっと顔を出して刻を呼んだ。


「着替えたよ〜」

「ん、了解」


 廊下でスマホを触っていたらしい刻は、スマホの電源を落とすと私に近付いてきた。


「じゃあ行くか」

「うん」


 廊下に出る前にカードキーを持ったことを確認して、私達は最寄りの階段に向かう。歩いていると私達と同じ山海高校の生徒らがレストランに向かうところに出くわした。

 歩いている人達の中には何人か見知った顔ぶれがいるものの、私の方からは話に行かない。


(何で刻と一緒にいるのかって聞かれたら、焦って変なことを言う気しかしないしね。いや、私なら顔を赤くして黙り込んじゃうか)


 やたらと鮮明にその情景を想像出来てしまい、私は1人苦笑いを浮かべる。

 隣にいる刻は私が苦笑いを浮かべた事には気づかず、「ふあぁ」と呑気にあくびを一つしていた。


「寝不足?」

「多分な。昨日の夜コーヒー飲んでたから、すぐに寝落ちしたわけじゃなかったし。多分寝落ちしたの4時くらいだと思う」

「じゃあ3時間ちょっと前まで刻起きてたのかぁ」

「おう。その時には結構空宮の顔色も良かったから寝てもよかったんだけど、万が一が怖いからな。少しだけ頑張ってた」

「ふふ、ありがと」

「ん、別に」


 少しだけ照れたような感じで刻は返事を返してくれる。心なしか耳の先端はほんのりと赤くなっているように見えた。



✲✲✲



 一階にあるレストランに着いてからは、流れるように空いている席を探して座った。ちょうど2人席が空いていてよかった。少し周りを見渡したところ、多いテーブルでは一つに8人も座ってるし、とても窮屈な上に騒がしそう。

 普段学校に行く朝は刻と一緒にゆっくりと過ごすので、今日も変わらずそれは続けたい。


「空宮」

「どうしたの?」

「俺今からご飯取りに行くけど、空宮も行くか?」

「そうだね。そうする!」


 ちょっとした荷物だけテーブルの上に置き場所取りをしておくと、私達は長い列の最後尾に並んだ。

 大体10分もあれば席に戻れるだろうか。詳しいところはまだ分からないが、今は奥から香ってくるパンに塗られたバターの匂いを楽しむことにしよう。


「空宮はさ」

「うん?」


 急に会話が始まったので、返事なのか疑問なのか曖昧な応えを返しながら、私はすぐ隣に立つ刻の方を見る。刻の視線は他の班の人達。その人達が話している内容は「今日どこに行くのか」というものだった。


「空宮は今日の観光でどこに行きたい?あまり長い時間いるのは無理だからな、できる限り目的の場所を絞って楽しめるだけ楽しんでやろうと思うんだが」

「うーん、そうだね。まず渋谷には行きたいかなぁ。原宿の竹下通は……人が多そうだしやめとこ」


 今の健康状態だと人混みによってまた体調を崩しかねない。ここは過度なくらいに気を付けておかなければ。


「うーん、あとはねぇ、スカイツリー!見てみたい!」

「スカイツリーか。ちょっと待ってろ」

「うん」


 刻はサッとポケットからスマホを取り出すとシュパパパパ!っとフリップ操作をした。

 さすが現代っ子。使いこなしている。

 ものの数秒で操作は終わり、そして刻は少し腕を組んだ。


「うーん、渋谷とスカイツリーって微妙に離れてるのな」

「そうなの?」

「うん。大体移動だけで50分くらいかかるみたいだぞ」

「50分かぁ」

「今日一日フルで観光出来るんならまだ時間に余裕があったんだけど、今回ばかりはな」


 申し訳なさそうな表情を浮かべながら刻はそう言った。気に病む必要など刻にはないというのに。

 本当に刻は優しい。


「他に候補ってあるか?」

「じゃあ、浅草寺が見に行きたい!」

「浅草寺か。少し待ってろこっちも調べる」


 そう言ってから1分も経たぬうちに、刻は少ししょんぼりとした表情を浮かべた。


「こっちも時間かかる感じ?」

「あぁ……なんならスカイツリーよりも時間かかる」

「ありゃ」

「うん、そこで提案なんだけどさ」


 少しタメを作ってから刻は口を開く。


「どうせなら時間かかってでもいいから、スカイツリーは見に行っておかないか?」

「いいの?」

「おう、元々空宮が見たいって初めに言ったやつだしな」

「やった!」

「それに、俺も少し見てみたいし」


 楽しそうにそう言って笑う顔は非常に幼げ。鋭めな切れ長の目はくしゃりと少し歪んで、優しい顔つきになる。


「じゃあ、そうしよっか」

「おう」

「あ、そうだ。渋谷で行きたいお店があるからそこは忘れないでね!」


 私はそう刻に伝えると、ちょうど順番の回ってきたバイキングコーナーにて朝ごはんを取り始めた。今日を楽しむエネルギーはここから摂取するのだ。しっかりと食べないとね!

 心の中で自分にそう言うと、私は早速目に入ったバターの美味しそうなクロワッサンからトングで取り始めた。


第211話終わりましたね。さて今回原宿の竹下通りには行かないようにしましたが、実際に僕は現場を見てきたことがあります。人多すぎです笑。本当に酔っちゃいそうでした。そんなとこに今の状態の空宮は連れて行けねぇ!

さてと次回は、19日です。お楽しみに!

それと「面白い!」「続きが気になる!」という方はぜひブックマークと下の☆からポイントの方をお願いしますね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ