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第210話.我儘

 目の前には、もう一つのベッドの上で土下座をしている刻の姿がある。それはとても深い土下座で、ベッドに沈み込んでしまうのではないのかと思ってしまうほどだ。


「本当にごめんなさい。わざとじゃないんです。空宮の看病してたらまさか寝落ちするとは思ってなくて」

「いやいや、別に怒ってないから。なんなら看病してくれてた事に関しては、すごく感謝してるし」


 別に私の言葉に嘘はない。というか全部本音。

 だって、刻が看病をしてくれていたという事実だけでもすごく嬉しいのに、さらには刻の寝顔までまじまじと見れてしまったのだから。


(一石二鳥ってやつなのかな?)


「いや、それでもだな?熱を出して倒れてる女の子と一緒に一夜過ごしたっていう事実には、変わりないんだぞ?」

「まぁ、そうだけど。別に刻だったらいいかなーって。むしろウェルカム?……あ、痛っ」

「バカやろう」

「うぅ……」


 少しからかってみるつもりで刻にそう言うと、パシッと乾いた音が響く程度の威力でデコピンをされた。

 うん。なかなか痛い。

 おでこをさすりさすりと自分で優しく撫で、そして目の前に座っている刻の顔を見た。


「え?」


 刻はそっぽを向いて頬を染めている。滲み出ている感情は恥ずかしいとか、照れとか、あとは……嬉しい?とか。そんな感情。

 もし、私と一緒に寝れる事に嬉しさみたいなものを感じてくれているのなら、私も嬉しい。というか、嬉しいと思っていて欲しい。これは私の願望だけど、そうであってくれたのなら、私は少しだけ踏み出せそうだから。


「とにかく、空宮は今日は1日念の為安静にしとけとのことだ」

「えぇ……でも私元気だよ?ほら!」


 パッと両手を挙げて、軽くジャンプをその場でしてみせると「ふふん!」と胸を張る。


「元気でもだ。まだ明日もあるしな」

「でも、今日は1日何も考えずに東京観光できるんだよ?」


 確かに明日は神戸に帰らないといけないが、今日はまだ東京に泊まるのだ。ホテルは各々好きな所に泊まっていいみたいだから、私も一応今日のどこかで外には出るけどせっかくなら東京観光くらいしたい。


「確かに1日観光できるけどな、また倒れたら嫌だろ?」

「そりゃあ……そうだけどさ。刻に迷惑かけるのも嫌だし……」

「いや、俺に迷惑をかける分には構わん。そうじゃなくて、俺が言いたいのは、空宮がまたあんなしんどそうな顔をするところを見たくないってことだ」

「……刻には迷惑かけていいの?」

「程々になら」


 私はいい事を聞いたとばかりに刻の方を向く。そして、刻の隣にポフンと座ると一つ我儘を言った。


「私、刻と一緒に東京観光したい!」

「いや、だからそれは控えろって……」

「違くて、今日どこかのタイミングで絶対に別のホテルに移らないといけないでしょ?その時にさ、少しでいいから東京を見て回りたいなーって」

「いや、だから……あぁ、もう。俺、空宮に弱いなぁ」


 ガシガシと頭を掻きながら刻はそう言うと私の方を見た。


「分かった、分かったよ。移動の時に少し東京観光もしていくか」

「やった!」

「少しだけだからな?」


 私は小さい子供のようにベッドの上で跳ねながら喜ぶ。


「あ、ちなみにだけど凛と華山とは明日合流な」

「そうなの?」

「おう。今日のところは山下の班と一緒に行動するらしい」

「そっか、雪の班とかぁ」


(雪は濱崎くんと一緒の班だったよね。いいなぁ、カップル。羨ましい)


 ぽわぽわと彼氏という存在を妄想しながら、私は少し隣を見る。切れ長の目を少し伏せながら刻はスマホを眺めていた。隣から少し見えるスマホの画面には、ホテルの文字が見えている。


「ホテル?」

「おう。今日寝る場所は自分で予約取らないとダメだからな。どこがいいか探してるんだよ」

「なるほど。じゃあさ、私が探してもいい?」


 そう提案すると、刻はキョトンとした表情で私にスマホを手渡してくれた。「ありがと」とお礼を言うと、私はぺちぺちとスマホの画面をタップし始める。


「ここにしよっと」


 しばらくしてから私は1人ボソッとそう言って部屋を一室"だけ"取ると刻にスマホを返した。


「決めたのか?」

「うん!」

「そうか。なら、朝飯のバイキングだけ軽く食って準備でもするか」


 そう言うと立ち上がる。私も刻の真似をして立ち上がり、部屋を出ようとすると後ろから肩を掴まれた。


「どうしたの?」

「どうしたのって、着替えろよ。まだパジャマだろ?」


 そう言われて自分の体を見てみると、確かに身にまとっているのはこの日のために買った新しいパジャマ。シルク素材で作られた紺色のオシャレな感じのやつだ。


「ほんとだ!着替えないと」

「そうしろ。廊下で待っておくから」


 そう言ってから刻はてくてくと扉の方に向かい、廊下に出た。その姿を見届けると、私はパジャマのボタンをプツプツと外していく。(あらわ)になる双丘とそれを包む水色のブラ。

 少し肌寒いな、と思いながら私は服を着込んでいく。可愛くオシャレに。刻に見てもらえるように。


第210話終わりましたね。空宮が今回ホテルの部屋を取りましたけど、はたして刻はどこに泊まるんでしょうかね〜?

さてと次回は、17日です。お楽しみに!

それと「面白い!」「続きが気になる!」という方はぜひブックマークと下の☆からポイントの方をお願いしますね!

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