第209話.君の寝顔
「一緒に寝たかった」という空宮の言葉。それは空宮の戯れ言なのか、それとも本音なのか。そこのところの真意を知るのは空宮本人だけだ。しかし、知ろうと思えば空宮を起こして聞くことも出来るが、今の空宮は病人でしかもすやすやと寝てしまっている。それだけのために起きてもらうのは違うだろう。
(なんなら、すでに一度ほっぺた触って起こしちゃったわけだし)
その点についてはしっかりと反省をしておきながら、俺は腕を組んで椅子の背もたれに背中を預ける。
「……綺麗な顔して寝るんだな」
じっと空宮の事を見つめていて気づいた事。空宮の寝顔をこんなにじっくりと見た事は無かったから、こんな表情で寝るなんて知らなかった。
安心しきったような顔で空宮は柔らかい寝息を立てている。
「ふあぁ……」
少しあくびをしながら俺は部屋に置いてある時計を見た。時刻は東先生に空宮の事を任されてから20分以上経っており、10時にもうそろそろなりそうだった。
時刻を確認すると体に一気に今日の疲れがのしかかる。うつらうつらと船を漕ぎながら、俺の視界は段々とぼやけ始めた。そして、ものの数秒で俺の意識はブラックアウトする。
✲✲✲
どれだけ意識を失っていたのかは分からない。ただ、感覚的に決して短い時間でないことは確かだ。
重いまぶたをゆっくりと持ち上げて、意識を覚醒させていくと俺は時刻を確認した。
「……は?」
時計が示している数字は[AM2:00]。
そう、俺は空宮と同じ部屋で4時間以上寝ていたということになるのだ。
(東先生は来なかったのか?)
俺は買い出しに行ってから帰ってくる姿を見ていない東先生の事を少し探す。だが、その姿は部屋のどこにも全く見つからず、代わりにテーブルの上に缶コーヒーとおにぎりの入ったビニール袋と一枚の紙を見つけた。
紙を手に取り書かれている内容に目を通す。
[部屋に戻ってきたら鏡坂くんが気持ちよさそうに寝ていたものですから、私は養護教諭用の部屋に戻っておきます。それと、もし鏡坂くんがこの紙を朝ではなく深夜帯に見た時にお願いなのですが、出来れば空宮さんの事を見ていてあげてください。もちろん空いているベッドで寝てくれても構いません。なんなら、空宮さんと2人で寝るのも全然私はありだと思うので。東より]
最後の方は完全に蛇足だった気がするが、そこは気にしないでおこう。
まずまず、俺が何の許可も無しに空宮と一緒のベッドで寝れるわけがないし。逆に言えば許可さえあれば別に拒む理由も無いのだが。
そんな事を思いながら、俺はガサガサとビニール袋を漁りおにぎりを取り出す。そして、おにぎりの袋を開けると俺はパリパリっと音を立てながら、小腹を満たすためにおにぎりを一口食べた。
広がる海苔の香りに、安定的でハズレの無い鮭の味。シンプルで一般的だが、やはりシンプルほど安心できるものはないと、実感することができた。
(ここで変わり種とか持ってこられても困るからな)
ペロリとおにぎりを平らげると、俺は一度空宮のおでこに手を触れた。伝わってくる温度は俺が寝る前に比べれば幾分かマシにはなっているが、まだ微熱程度はありそうだ。
「早く元気になれよ〜」
ワシャワシャと空宮の頭を撫でると、俺はカフェイン補給のために缶コーヒーも開けて一気に飲み切った。
✲✲✲
朝です。朝なのです。カーテンの隙間から差し込んでくる光は暖かくて、すごく気持ちがいいのです!
まぁ、それはそれとして。私は一つどうしても驚かずにはいられない事があった。
「すー……」
隣から聞こえてくる寝息。私の頭が乗っている枕のすぐ隣で、刻が自身の腕を枕の代わりにしながら寝ているではないか。
「へぇっ!?」
寝起きの一発目にそんな光景を見たためか、心臓がいつもよりもバクバクとうるさく動いている。
(な、何で刻がここにいるの?)
疑問にそう思いながら、私は少し気だるい体を頑張って起こして辺りを見渡した。すると近くのテーブルの上に紙が置いてある。私は両足を下ろしてその紙を取りに行くと内容を把握する。
つまりはこういう事らしい。東先生が私の面倒を刻にお願いしたということだ。
「……嬉しい様な恥ずかしい様な」
少し頬に熱を帯びたのを確認しながら、私は刻の背中にタオルケットをかけてあげた。
私は刻のすぐ隣りにしゃがみこんで刻の顔を眺める。思ったよりも長いまつ毛に、男の子とは思えないほどに綺麗な肌。あとは普段の大人びた雰囲気とは少し違う、幼い寝顔。
そんな刻の顔を眺めながら、私はヨシヨシと刻の頭を撫でた。
「ありがとうね」
気持ちよさそうに顔を歪める刻の表情はとても可愛かった。
第209話終わりましたね。今回の後半では完全ではないものの少し元気になった空宮が帰ってきましたね!え?弱ってた空宮をもっと見ていたいって?……分からなくもないです。可愛いですもん。だけど、元気な空宮もとっても可愛い!
さてと次回は、15日です。お楽しみに!
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