第201話.やっぱりもう少し楽しみたい
冬の寒さなんか忘れそうになるくらいに、体が熱を持って熱くなっている。ぽかぽかと言うよりも、カァっと身体の芯から熱が発生している感覚。きっと、心臓が熱くて新鮮な血液をドクドクと送り出しているからだろう。
体の中心胸の辺りから、果ては足や手の指先まで熱い。
「空宮の手、暖かいな」
隣に腰掛けている刻は、こちらを見ることなくそう言った。正直言って今この状況では、私の事を見てくれない方が助かる。普段ならばもっと私の事を見ていてほしいが、今は見られると恥ずかし過ぎて燃え尽きてしまいそうだから。
「そう、かな?」
「うん、かなり暖かいぞ。おかげさまで俺の手もぽかぽかだ」
そう言いながら刻はまた私の手をギュッと握りしめた。それに少しピクリと体を反応させながらも、私は気づかれないように振る舞う。
気付かれたら何だか負けた気がしてならないから。
「ふ、ふふん!そうでしょ〜?もっと私に感謝してくれてもいいんだよ?」
「ははっ、そうだな」
声を上げながら楽しそうに笑う刻の横顔は、隣の特等席に座る子だけが見ることが出来て、そんな特等席に座れている自分に「やるじゃん」と言って褒めてあげたいと思いながら、私は空いているもう片方の手でトントンっと刻の肩を叩いた。
「ん、どうした?」
「そろそろ凛達と合流する?あの2人も欲しい物とか、必要な物くらいはもう見終わっただろうしさ」
自分でこの楽しい時間を終わらせるのは少し寂しかったが、凛達の事も忘れてはいけないのだ。今は一緒に来ている凛達の方を優先して動かなければならない。
「そうだな。じゃあ、迎えに行くか」
刻はそう言うとコートのポケットから手を出して、私の手を離した。
「あっ……」
思わず声が漏れてしまうも、私はそれを必死に隠そうとする。
(あー、どうしよ!?声出ちゃったよ!?手を繋げないのが寂しくて思わず声出ちゃってたよ私!?刻に聞かれちゃったかな?)
そろりと横に目を見やりながら、刻の表情を伺ってみると「手、握るか?」とこちらを見ながらそう聞かれた。
どうやら無事、刻に聞かれていたようです。
恥ずかしいような嬉しいような、どちらともつかない感情を胸の奥にそっと仕舞いながら、私は首を横に振った。
「だ、大丈夫だよ!?」
ダメだ。声が裏返って何の説得力も無い。
感情は胸の奥に仕舞ったつもりだったが、刻と手を繋いでいたいという欲求が代わりに前面に出て来てしまったらしい。
「そうか?ならいいんだけど」
そう言うと凛達がいるLoftの方面へと歩き始めた。本当なら、このまま私も後ろについて行けばいいだけの話なのだ。だけどなぜだろう。この時は私は冬の魔法にでもかけられていたのかもしれない。
刻のコートの裾をキュッと握ると、私は一つお願いをしたのだ。
「あの、帰る時に……手を握ってくれません……か?」
幼なじみの刻に思わずガッチガチの敬語を使いながらそうお願いするのは、恐ろしい程に緊張した。刻も刻でポカンとした表情を浮かべながら私の事を見てくる始末。
身体の芯から熱が溢れ出し、私の事をどんどんと包んでいくこの感じはなんとも形容し難い。
(にしても、刻ってば中々喋らないね)
あまりにも返事が遅いので目線を上げて刻の顔を見ると、先程のポカンとした表情が、熟れた林檎のように真っ赤に染っていた。
「と、刻!?熱でもあるの!?」
今までに見た事のない赤さに、私は思わず焦ってそう聞いてしまう。少し考えれば理由なんて簡単に分かるものなのに。
「ね、熱は無い……と思う」
「ほ、ほんと?顔真っ赤だよ?」
そう言って私はずいっと刻に近付いておでこに手を当てた。刻の体は一瞬ピクっとなったものの、私は気にせずに熱を測る。
「やっぱり熱い。すぐに帰って休まないと!修学旅行に行けなくなっちゃうよ!」
「い、いや大丈夫だから。寒いから熱く感じるだけだから」
刻はそう言って私から少し距離を取ると「ほ、ほら、行くぞ」と言って歩き出してしまった。
「あ、待って!」
私は小走りで刻の隣まで向かう。結局お願いの答えは聞けなかったが、それはまあ後でいいだろう。
両手にはぁっと息を吐きながら、私は先程よりも冷たくなってしまった両手を擦り合わせた。
第201話終わりましたね。最近の話は空宮視点が多い気がしますけど、実は書いてて楽しいのは空宮視点だったりするわけです。
さてと次回は、30日です。お楽しみに!
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