第191話.ホームルーム
木枯らしが吹きいよいよ冬の到来かと感じ始めた11月中旬。ロングホームルームの行われている教室では、妙にソワソワとした空気が漂っていた。
羽峡先生がチョークで黒板に書く白い文字。最後の文字のはらいの部分を書き終えると、チョークの白い粉が深緑色の黒板の上を走っていくのが見える。
「という事で、今日のロングホームルームでは、来月の12月21日から23日まで行く2泊3日の修学旅行の班決めをしてもらう」
そう先生が言うと教室内では「おぉーー!!」という大声が響き渡った。それは他クラスも同じようで、色んなクラスから似たような声が響いてくる。
「はい、静かに」
生徒名簿で教卓をトンっと叩くと、生徒の先程までの声が嘘のように静まり返った。
「班決めをする上での注意点だけ口頭でだが伝えておく」
そう言うと皆真剣な目付きで羽峡先生の事を見始めた。きっと修学旅行を最大限に楽しむためには必要不可欠の情報であるからだろう。
「えー、まず、最低でも4人で班を組め。上限は特にない。決まり次第報告しろ。それと男子だけ女子だけ、男女混合。組み方とかそこら辺は各々好きにすればいい。もう一つは伝える事といえば……」
そこまで言うとあえて焦らす様に先生は口を噤んだ。皆はその続きが気になって仕方がないらしく、かなり前のめりになりながら先生の言葉を待っている。
「コホン」
わざとらしく咳を一回挟むと、先生はついにその閉ざされていた口を開いた。
「班は他クラスの生徒とも組んでもいい」
たったそれだけ。たったそれだけの言葉で、先程の声とは比べ物にならないほどの大声が響く。廊下には既に同じ事を聞いたのであろう他クラスの生徒が走り回っていた。
「じゃあ、解散。くれぐれも怪我をしないように誘いに行けよー」
あくまで淡々と。淡々と通達事項を伝えると先生は教室の隅にある椅子に腰を掛け、細く長い足を組み本を読み始めた。
(相変わらずマイペースな先生だよなぁ)
細く切れ長の目をさらに細めながらページを捲るその姿は、さらに美人に拍車をかけている。
「刻くん刻くん!」
そんな感じで先生の姿を眺めていると、急にガシッと肩を掴まれグワングワンと揺さぶられた。
脳が揺れ三半規管が暴れたために少し酔いそうになりながらも、俺は揺らす手を肩から除ける。
「どうした?」
肩を揺らしていた張本人である凛にそう聞くと「ワクワクが止まらない!」という感情を剥き出しにした状態で喋り始めた。
「「班決めだよ!」」
「うるせぇ……」
凛だけかと思っていると不意打ちで同時に空宮もそう言った。おかげで鼓膜が震えに震えまくっている。
「刻班一緒に組も!」
「僕も僕も!」
どちらも満面の笑みを浮かべながらそう迫ってきた。テンションが上がっているためか、2人とも少し頬が赤くなっている。
「分かった。分かったから少し落ち着け?」
そう言って宥めると2人とも深呼吸やらなんやらを駆使して、段々と落ち着きを持ち始めた。
(テンションの上がり方が小学生なんだよなぁ)
「ふぅ、ちょっと興奮し過ぎちゃった」
そう言いながら凛はペロッとピンクの舌を少し出す。
「そんな事より!班を組むにしてもあと1人足りないからさもう1人を探しに行こうよ」
凛の言葉を「そんな事より」扱いをしながら空宮はそう提案してきた。
個人的には「そんな事より」扱いをされ、少しシュンとしている凛の方に意識が向きつつ首肯する。
(まぁ、探しに行くとか言ってるけど、どうせ残りの1人はあいつなんだろうな)
「という事でユウのクラスに行くよー!」
「「おー!」」
元気よく空宮と凛は拳を突き上げてそう言った。
残るメンバーはやはり華山。特に意外性がある訳でもなく無難だと思う。
そんな事を思いながら教室を出て華山のクラスに向かった。
途中の廊下では笑いながら「どこ行くどこ行く?」と既に班が決まったのか、当日の予定を決め始めている生徒などがいた。
他の生徒同様に俺の心の中には、楽しみという感情がドッシリと居座っている。
普段の日常から少し外れた非日常。
それを楽しみにしている自分。
そんな事を思いつつ、少し笑顔を湛えながら俺は歩いた。
第191話終わりましたね。修学旅行に行きたいですね!僕の高校は中止にはならず延期になりましたが、読んでくださってる方の中には無くなってしまったという方がいるかもしれません。どうかこれを読んで刻達と一緒に修学旅行をしている気分を味わってくださいね!
さてと次回は、10日です。お楽しみに!
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