第181話.本番スタート
空宮達が着替えに行ってからしばらくすると、スタジアム内にチアの服を着た空宮達が出てきた。
青と白を基調とした服。短いスカートからは素足が見えており肌寒さを感じるものの、それよりも爽やかさの方が強く表れていた。
こちらの視線に気がついたのか空宮と凛は大きくてを振りながら、所定の位置にまで歩いて移動していく。反対側からは同じ服を着た華山と江草の姿も見えた。よく見れば緋山の姿も。
「目の保養になるなぁ〜」
先程まで後ろにいた灯崎が今は俺の隣に座ってギャーギャーと騒いでいた。
あまりにもうるさいので俺は少し黙らせるためにデコピンを一発お見舞しておく。
「痛ッ!?えっ、急に何するんだよ!?」
「いや、うるさかったから」
「それだけの理由で!?」
(それだけって、こいつ自分がどれだけ大きい声量で叫んでたのか自覚してないのかよ)
少し呆れながら俺はもう一度空宮たちの方に向き直った。
どうやら灯崎の相手をしている間に、大方の準備は済んでいたらしくいつでも行けそうな雰囲気だ。
「只今より1、2年生女子によるチアリーディングです」
ちょうどいいタイミングで放送部員の綺麗な声がそうアナウンスした。
スタジアム内にはその声が少しの間反響し、そしてそれが止むとおそらくダンス部であるらしい女生徒がビシッと手を空に向かって伸ばした。
「せーのっ!」
そう言うと一気に音楽がスタートする。
本格的なチアリーディングが素人に出来るわけないので、アクロバティックな動きはほとんど皆無に近いが、それでも統率の取れている動きには圧倒された。
彼女達は額に汗をじんわりとかきながら激しくチアをする。
空宮のポニーテールは揺れ、凛は舞い踊り、江草は小さい体躯ながらも機敏に動いて、華山は丁寧に振り付けをこなし、緋山は気だるげに見えながらも確実にこなしていく。
「すげぇ」
空宮に楽しみにしておけと言われた日からしばらくの間一体どんなものが見れるのかと思っていたが、それは遥かに俺の想像の上を行くものだった。一言で言えば「すごい」という賞賛の言葉しか出ない。
「いいねいいね〜」
それでもやはり灯崎は平常運転な様でイケメン顔を破顔させ、またもや鼻の下をまた伸ばしていた。
(これが俗に言う残念イケメンか)
そんな事を思いながら、俺は目の前の景色を虹彩のフィルムで記憶に焼き付けた。
二曲目が始まるとまた動きが変わってくる。一曲目までは全員で正面の方を向いてチアをしていたが、今度は5人組となり、スタジアムを囲むように位置する観覧席全体を向くようになった。
そして俺達の方をちょうど向いた5人組は偶然にも空宮達のグループ。
ちょうど空宮と目が合うと、空宮はニッと可愛らしく笑いながらキレよく動き始めた。
✲✲✲
チアが終わり次の競技の準備を野球部がしている間に、チアの服装のままの空宮たちが帰ってきた。
「刻ー!!」
「うっ……く、首が締まる」
空宮に突然抱き着かれて俺は少し逝きそうになりながらも、何とか現世にとどまった。
(一瞬川のこっち側でおばあちゃんが笑ってたよ!?いや、こっち側ってことは生きてるな。ごめんね、おばあちゃん)
心の中で祖母に謝りながら俺は抱き着いてきた空宮の腕を解いた。
「ギューっ!」
「ふぬっ!?」
せっかく解いたはずなのに、また空宮に抱き着かれて俺の首は締まる。
「ち、ちょっと?空宮?し、死んでまいます」
「あ、ご、ごめん」
どうやら軽く死にかけていたことに気付いていなかったらしく、死にそうなことを訴えるとすぐに解いてくれた。
軽く息を整え俺は後ろにいる空宮の顔を見る。
そこに浮かぶのは満足感からなのか、羞恥や照れからなのか、はたまた動いた後のせいなのかは分からないが、空宮の頬はほんのりと上気していた。
第181話終わりましたね。書いていてわかったことはチアって難しい、ということですね。本物を見た事がないだけにこれでいいのかと不安にしかなりませんでした笑
さてと次回は、20日です。お楽しみに!
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