第179話.体育祭
来る体育祭当日。
俺達は学校から徒歩僅か数分で着く王子スタジアムにて体育祭を決行した。
生徒達は活気に満ち溢れ大声で自分のクラスを応援していた。かくいう俺達も例外ではなく、今は男子4×200メートル走を走る上木と濱崎の応援に皆は力を入れている。
(4人走るんだから残りの2人の事も応援してあげなよ)
少しそう思いながら、俺達はたった今バトンを受け取った上木の姿を捉えた。
「おりゃー!上木くん駆け抜けろーー!!!」
隣では頭にハチマキを巻いて、大声で応援する凛がいる。
大声の出しすぎなのか時々「はぁはぁ」と息を切らして、ほんのり顔を紅潮させながら楽しそうに笑っていた。
「あはは!ほらっ、刻くんも一緒に応援するよ!」
「おう」
「「せーのっ!」」
そう言って2人して息を大きく吸い込むと、
「「駆け抜けろーー!!!上木ーーーー!!!」」
と、そう叫んだ。
応援の力が届いたのかは定かでない。だが上木はぐんぐんとスピードを上げ、アンカーである濱崎に一位でバトンを託した。
「っしゃ!次は濱崎飛ばせぇー!!!」
テンションが上がりすぎてしまったせいか、俺は1人だけ大声で応援してしまう。
当然その声は周りにいる生徒にも聞こえるわけで、灯崎からは「鏡坂って意外と熱い男なんだな!」と言われる始末だ。
(灯崎お前にだけは言われたかねーよ。上木の時バカみたいに応援してたくせに)
そう思いながらも、やはり応援してしまう気持ちは分かる。
「ほらっ、雪も応援しよっ!!」
「え?ち、ちょっと!?」
後ろからは空宮に「ほらほらっ」と背中を押されて前の方の席に移動してきている山下の姿があった。
「さぁ!今頑張って走ってる濱崎くんのことを応援しよー!!ほらっ、雪も!」
「あ、あぅ……」
頬を段々と赤く染め、口を少しパクパクさせながら山下は口元に手を持っていき、メガホンの形を作った。
すーっと息を吸い込む音が聞こえたかと思えば、次の瞬間に高い声が辺りに響く。
「濱崎くんっ、頑張ってーーーーーーーーー!!!……っはぁはぁ。頑張ってーーー!!!」
力の限り山下は叫ぶ。顔を赤く染め、息も絶え絶えになりながらも、それでも叫び続ける。周りの目を気にすることもやめて、ただスタジアムの赤褐色のトラックを走る濱崎だけを見据えて。
さすが現役のサッカー部と言ったところだろう。その俊足はもったいぶられることなく存分に発揮されていた。
後ろに位置する二位の選手とどんどん差を広げ、そしてそこからさらにラストスパートをかけた。
「行けるよっ!」
「行けっ!」
「濱崎くんっ!!」
ピストルのパンっと鳴る音。
空を舞う白いテープ。
しばらくの間スタジアム内に走る沈黙。
「勝った……」
静かに、けれども少し震えた山下の声。
「やったよ、やったよ雪!!一位だよ!」
「うん、うんっ!」
満面の笑みを浮かべながら山下は笑う。
俺達が「やったー!」と喜びを分かち合っていると、「山下ー!!」と叫ぶ濱崎の声が聞こえてきた。濱崎は膝に手をつきながら額の汗を拭うと、右手でブイサインをこちらに向けた。
「山下ありがとなーー!!!」
「どういたしましてーー!!!」
濱崎の大きく響く声。そしてそれに対して返事を返す山下の高い声。
「それとーー!」
そしてもう一度濱崎は叫んだ。
「俺は山下の事が大好きだぞーーーー!!!!」
濱崎から山下へ向けた愛の言葉。
山下は先程とは比べ物にならないくらい顔と耳を赤く染めた。目は一気に涙で濡れ、両手で口元を抑える。
突然の出来事に俺達は言葉を失っていたが次第に盛り上がりを見せた。
高校生のバカ騒ぎ。
青春の一ページ。
一生忘れることのないその景色。
「私も濱崎くんの事大好きだよーーーー!!!!」
山下は濱崎へ返事を返すように、愛を叫んだ。
第179話終わりましたね。今回のお話TOP5に入るくらい好きな出来でした。ここにカップル1組目が誕生です!!
さてと次回は、16日です。お楽しみに!
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