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第173話.朝の日常

 珍しく朝早く起き、公園に散歩しに行くと空宮と出会った。そして朝の別れ際に、今日は一緒に登校しようと空宮から約束を俺は取り付けられる。

 空宮と一緒に行くこと自体は別に珍しくともなんともないが、約束して一緒に行くことはあまりない。

 基本は朝登校している時に、偶然出会ったら一緒に行くという感じだ。


「刻兄なんかソワソワしてるね」


 朝食のトーストをパクリと一口頬張っている(うつみ)にそう言われる。


「そうか?いつも通りだと思うんだけど」

「いや、微妙にソワソワしてるよ?さっきからチラチラ時計ばっかり確認してるし。今日何かあるの?」


 (うつみ)にそう聞かれ少し言葉に詰まってしまう。

 本当は躊躇うことなく空宮と一緒に学校行く約束をしたと言えばいい話なのだが、相手は(うつみ)だ。正直にそう言えば、何かとからかってきそうで怖い。

 だから俺は適当な理由を考えて誤魔化した。


「あー、いや今日はだな、一時間目から小テストがあるからちゃんと寝ることなく最後まで解けるか心配で」

「ふーん?ま、それが本当なのかは知らないけど、刻兄って別にテストで寝たことないでしょ。小テスト程度ならいつもいい点数取ってるし大丈夫じゃない?」

「だといいんだけどな」


 そう返すと「だいじょぶだいじょーぶ」と言って(うつみ)はスマホをいじり始めた。指をスライドさせているところから見るに、誰かとLINEでやり取りしてるんだろう。

 しかし仮にそうだとして朝っぱらから誰とLINEなんてするんだ?

 そう思いながら俺はもう一度時計を見る。

 空宮との約束の時間まであと10分ほど。学校に行く準備自体は完了しているし、先に行って待っておこう。

 そう思い俺は(うつみ)に向かって「じゃ、行ってくる」とだけ言うと玄関に向かった。背中側から「いってらっしゃーい」と言う声が聞こえてくる。



✲✲✲



 刻兄の様子が怪しいと思ったから蒼姉にLINEしてみたけど、まさかビンゴだったとはね。刻兄にも可愛い所あるじゃん。

 プレートの上に残っているトーストをパクパクっと口に押し込むと私はグイッと一度大きく背中を伸ばし、そして息を吐いた。

 予めテーブルの上に置いておいたシンプルなデザインのシュシュを手に取ると、私は慣れた手付きで髪の毛をまとめていく。

 蒼姉の髪の毛みたくサラサラになりたくて真似したシャンプーとリンスの香りがフワッと辺りに広がった後、私は一度だけその場でくるりと回った。


「よしっ!(うつみ)ちゃんは今日も元気だよ!」


 誰もいない部屋で自分に教えてあげるようにそう言うと、私はソファの上に置いておいたカバンを手に取る

 玄関に向かいローファーに足を入れると、コンコンっとつま先を鳴らした。

 家には誰もいない。刻兄はもちろん。両親共々もうすでに働きに出ている。

 だから、私はそんな誰もいない家に向かって「行ってきます」と言った。返事は返ってこずただ無機質な空気が辺りに流れるだけ。

 だけどそれでいい。

 家に帰った時にはきっと返事があるから。



✲✲✲



 5分ほど早く約束の場所に着いたので俺は近くの壁にもたれる。

 あと5分もあるしスマホでゲームをしようと思って制服のポケットの中から取り出したはいいものの、すぐに見覚えのあるポニーテールを揺らして歩いてくる女の子が見えた。


「ありゃ?刻の方が早かった」

「だな。空宮は遅刻」

「んなっ!?まだ遅刻じゃありません!むしろ予定よりも私早く着いてるから!」

「だけど俺の方が早い」


 試しにそう言ってみると「た、確かにそれはそうだけどさ」と言いながら不服そうに頬を膨らませている。

 俺は両頬にできた風船を、ほんの出来心でなんとなく指でつついてみる。

 つつくとぷにっと柔らかい感触が伝わってき、同時に風船は段々としぼんでいった。そして完全にしぼみ終えると空宮は少し頬を紅潮させながらこちらを見てくる。


「私、刻のそういう所嫌いじゃないけど、不意打ちは嫌い」


 上目遣いながらも不服そうなことに変わりはない。


「すまんな」


 そう言ってポンッと空宮の頭の上に手を乗せるとさらに数段頬を紅潮させて、「そういう所だって……」とボソッと呟いた。

 俺には空宮のその様子がどうしようもなく愛おしい。


「さ、ここで油売ってても仕方がないし、さっさと行くぞ」

「うん」


 歩き始めると空宮は俺の横に立ち、俺は空宮の歩幅に合わせる。

 いつも通りの俺達。

 いつも通りの光景。

 歩幅は小さくゆっくりで、空宮は時折こちらの顔をチラッと確認しながらただ歩いた。

 会話はあまり無い。ただそれが居心地が悪いのかと聞かれればそういう訳でもない。


「今日ねチアの練習があるんだ」


 不意に空宮が話を始めた。


「そうか」

「うん。それでね凛も参加することになったの」

「凛も参加するのか」

「うん、一緒に頑張るの。だからさ、頑張って練習するから本番もちゃんと見ててね?」

「もちろん」


 そうシンプルな言葉で返すとニヒルと笑いながら「楽しみにしてて」と笑顔で言われる。

 ほんの少しだけ俺の脈が早くなった。


第173話終わりましたね。本編とは関係ありませんが作者ついに夏休みが終わり学校が始まりました。泣きそうです(心は泣いてる)。ただし、2日に1回投稿は続けますので安心して下さいね!

さてと次回は、4日です。お楽しみに!

それと「面白い!」「続きが気になる!」という方はぜひぜひブックマークと下の☆から評価の方お願いしますね!


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