第172話.傍観者
お久しぶりです。緋山さん!
いつも通り予鈴ギリギリに教室に入ると自席に座った。
朝から周りは何だか騒がしい。男子はソワソワとし女子は「どうする〜?」などと話し合っている。まるでバレンタイン当日の様な雰囲気。
だが私は正直に言えば周囲の事はどうでもいい。興味も無ければ無理に関わる必要も無いから。
私は登校時から着けているBluetoothのイヤホンを使って、音楽を聴き始めた。
シャカシャカと音を立てながら流れてくる曲は、少し前まで放送していたドラマの主題歌。確か曲名は「bitterbitter」とかそんな感じだったと思う。
ドラマとかはあまり観ないから、話の内容は分からないけど、この曲はなんとなく好きだ。女性ボーカルの声で歌われる恋の歌。激しいロック調で歌詞の意味を特に考えずに聴けば盛り上がれる曲となり、よく歌詞の意味を聴いてみれば恋に悩む少年少女の曲となる。
恋をしたことのない私からすれば、歌詞の本当の意味する所は分からないが、きっと、恋をしたことのある人には刺さるのだろう。
いつか私にもそんな時が来るのだろうか。
予鈴が鳴り少しすれば、担任の教師が生徒名簿を持って入ってきた。あまりにも変わり映えしない、いつも通りの景色。もう飽き飽きしてしまった。
窓の外を見てみても空には雲が少しあるだけで、こちらも相変わらず何の変わり映えも無い。
「じゃあホームルーム始めるから委員長挨拶頼めるかな」
前に立つ担任がそう言うと委員長は挨拶の指示を出す。私は少し面倒臭いと思いながらも適当に流してささっと座った。
また窓の外を眺めながら今日のバイトのシフトを思い出した。そう言えば今日は、バイト先の先輩の代わりに入らなければいけない日だった。彼女の誕生日があるからとか言っていたけど、それなら初めからその日はシフトを入れなければよかったのにと少し思ってしまう。
ま、好きな相手の事を思ってのことなのだから、そこは尊重はするけど。
「ね、ねぇ緋山さん?」
「何?」
「ひっ……」
窓の外を見ていると急に隣の席から声を掛けられた。ただ返事を返しただけで少し怯えられる。
「で、何?」
もう一度そう聞き返すと、相手は少し泣きそうになりながらぽつりぽつりと喋り始めた。
「あ、あの、今体育祭で出る競技の話し合いをしてるんだけど、そ、その、何か出たい競技とかある……かな?」
「別に何も無い。絶対に出ないといけないんなら、適当に余ったやつにでもしといて」
そう返すと私はまた窓の外を眺めた。
もう体育祭の時期か。去年は確か当日はすっぽかしてバイトに行ってた気がする。さすがにその日はバイト先の店長もシフトを入れる時学校が無いのか?って聞いてきたけど、適当にその日は休みなんですって言ったっけな。
少し過去の事を思い出しながら、今年もどうせそんな風になるだろうと思っていた。
この瞬間までは。
✲✲✲
今日はなぜか朝早くに目が覚めたので軽く散歩に出てみると、公園でキーコーと錆びた鎖のブランコを漕ぐ空宮を見つけた。
「おはよう」と言ってもう一つの空いているブランコに俺も座る。
「暇」
「そうか」
「かまってよ」
「めんどい」
「刻のケチ」
朝っぱらから俺達以外の人がいない公園でそんなやり取りしていると、近くを犬の散歩で通りかかったおばさんがこちらを見た。
「あら、朝から仲良しねぇ」
にっこりとエクボの浮きでる笑顔でそう言われると、空宮は少しポッと頬を染めた。
「えへへ〜、仲良しって言われたね。私たち」
「そうだな」
「えへへ」
先程までの暇暇コールはどこへ行ったのかは分からないが、とにかく可愛らしい笑顔でこちらを空宮は見てくる。
しばらくの間見られ続けると少しその笑顔に見られるのが恥ずかしくなって、耐えられずに俺は立ち上がった。
「もうそろそろ家に戻るわ」
そう言うと「ちょっと待って」と言って空宮に引き止められた。軽く後ろを振り返ると空宮も立ち上がってトタタッと俺の横に来た。
「途中まで一緒に行こ」
「おう」
笑顔でそう言われて、俺は一体何のために早めに戻ろうかと思ったのか分からなくなりながら、歩き出す。
少しだけ歩幅の小さい空宮に歩くペースを合わせると、その事に空宮は気がついたのかこちらを見て「ありがとね」と言ってくれた。
「別に」とそう返しながらアスファルトの道を歩いて行く。
朝は涼しくて、少し肌寒い。けれど、空宮がいると何だか気分は暖かくなる。
多分。
多分そういう事なんだろう。
第172話終わりましたね。今回はお久しぶりです緋山さん!の回でした。相変わらず今回も一匹狼を貫き通していましたね。まぁ、それが緋山楓というキャラクターなんですけどね!
さてと次回は、2日です。お楽しみに!
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