第171話.企み
「うー……」
家に帰ってきてから、いつまで経っても顔から熱が引く気配がしない。いつまでもこんな真っ赤に染ったままの顔で家にいる訳にもいかないし、ひとまずは一度冷静になろう。
カッターシャツの上に着ているベストを脱ぎ、私はベストをベッドの上に置いた。そして、服の入ってる棚から下着と部屋着を取り出すと一階にある脱衣所に向かう。
結局のところ冷静になりたいのなら、物理的に頭を冷やした方が早い。
ギシギシと軋む音が鳴る階段を降りていくと、私は降りてすぐの脱衣所に入った。鍵はしっかりと閉めたことを確認する。
中に入るとスカートを脱ぎ、カッターシャツもするするっと脱いでいく。そして、それらを綺麗に畳むと、次はブラを外した。後ろのホックを少しスライドさせると肩から脱いでいく。
完全に脱ぎ終えると丁度鏡に映る自分と目が合った。それと同時に自分の身体も目に入ってくる。
「はぁ……」
自分の体を見て私は思わずため息をついてしまった。
凛やユウのと比べて明らかに小さい胸は、少し自分に対する自信を失わせてしまう。
自分の全てが身体だけでない事は十分理解してはいる。頭ではその事をちゃんと分かっているが、それでも胸の大きさというのは、男の子を振り向かせるためには強い武器になってしまうのだ。
だから、どうしてもこの貧相な胸を妬ましく思ってしまう。
「刻は大きい方が好きなのかな……」
フニっと小さくも柔らかい胸を触りながら私はもう一度「はぁ……」とため息をついた。
とっくに顔からは熱が引いている。
✲✲✲
ポカポカとした熱気を体に帯びたままリビングに向かって、そのままソファに沈み込むように座り込だ。
いつもの癖でスマホを触ろうとしたが、スマホはどうやら自室に忘れてきてしまったらしい。
(取りに行くのもめんどくさいし、たまには何もせずにゆっくりしよっと)
「蒼ー?」
ソファにてゆっくり寛いでいると、キッチンからエプロン姿のお母さんが出てきて、私の名前を呼んだ。
「何〜?」
「今日の晩ご飯何かリクエストある?ちょっとメニューが思い付かなくてさ、何かあれば助かるんだけど」
「んー、材料は何があるの?」
「材料はね〜」
冷蔵庫の扉を開いてパパパッと中身を確認すると、お母さんはこちらを向いた。
「えっとね、豚肉にじゃがいもと、人参あとは玉ねぎとかならあるわね」
「じゃあカレーとかは?その材料なら作れるんじゃないの?」
試しにそう提案してみると「うーん」と少しお母さんは悩んでしまう。
「カレーはね作れないこともないんだけど、ルーが無いのよねぇ」
「ルー無いんじゃ作れなくない?」
そう聞くとお母さんはかぶりを振って、片目を閉じながらこちらを見た。
「お母さんこれでもスパイスからカレー作れちゃうのよっ♪」
「えっ!?そうなの!?」
「驚いたでしょ〜」
エッヘンと私よりもある胸をお母さんは逸らしながら、自慢げに頭の後ろでまとめている髪の毛を揺らした。
ただ、スパイスから作れるのならなぜ先程あんなに悩んだ様子を見せたのだろうか。
その私の疑問がお母さんにも何となく伝わったのか、すぐにその事について話し始めた。
「ま、単純にスパイスからカレーを作るのはルーに比べて時間が掛かっちゃうのよねぇ」
「あー、そういうこと」
「うん」
そう言われて私はもう一度考え直す。
時間がかかるのなら仕方が無い。ならばカレー以外で作れそうな料理を考えた方が早いだろう。
頭の中にあるレシピノートを開いて、私は作ることが出来そうなメニューを探した。
探し始めてから、ものの数十秒。私は一つメニューを見つけた。じゃがいもを使って豚肉も使う。さらには人参も玉ねぎも。
そうそのメニューとは……、
「肉じゃが、とかどう?」
そう聞けばお母さんはポンっと手を叩いて「それいいね!」と言った。どうやら賛成してくれたみたいで安心する。
「じゃあ早速料理始めちゃうわねっ!蒼のリクエストだから腕によりをかけちゃうわよ!」
「ふふっ、楽しみ」
お母さんと一緒に少し笑うと、私は自室にあるスマホを取りに上がった。
部屋に入ってスマホの電源を付けると、何通かLINEが凛から届いている。ホーム画面のロックを解除してLINEのアプリをタップした。
アプリを開いてから凛との個別チャットを開くと、送られてきた文面が目に入る。
『ちょっといいかな?』
『蒼ちゃん、僕もチアやろうかなって思ってて、蒼ちゃんが良ければ一緒に刻くんを驚かせないかい?』
送られてきた内容は何やら面白そうなもの。正直言って断る理由がない。むしろ、断った方が後悔しそうだ。
だから、私はこう返信した。
『もちろん!一緒に刻のこと驚かせてドキドキさせちゃおうよ!』
第171話終わりましたね。今から僕は凛と空宮のチアをしている姿をちゃんと書けるのかという不安に駆られています。力の限り可愛く書いてやる!!(確固たる決意)
さてと次回は、31日です。お楽しみに!
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