第168話.青春へのお誘い
席に着きしばらくの間凛と話していると、前方の扉をガラガラッと音を立てながら羽峡先生が入ってきた。
「今からホームルームを始めるぞー。委員長挨拶」
「はい。起立、礼、着席」
委員長の声に従って俺達も一通りの流れをこなしていると、早速先生が黒板に何かを書き始めていた。
おそらくは、今からする話の内容についての事なのだろう。そしてそれは、多分先程灯崎達とした会話内容の事で間違いない。
「えー、今日は体育祭の出場競技について色々と決めてもらう。それぞれ立候補して決めていけー」
ドンピシャり。
見事俺の読みは当たった。1人その事に喜びを噛み締めながら自分は何に出ようかと考える。
出来ればあまり疲れないものがいいな。ただ、疲れないものはかなり限られてくるし。悩む所だ。
そんな風に悩んでいると、隣から身を少し乗り出して凛が俺に話しかけてきた。
「ねぇ、競技って何があるの?」
「競技か。そうだな、多いのは基本走競技だな。あとは生徒会主催の借り物競争とか。あと女子ならさっき灯崎が言ってたチアリーディングなんかもあるな」
「なるほど」
ふんふんと、首を縦に振りながら凛は「どれにしよっかな」と腕を組んで悩み始める。
文化祭の時も思ったけど、凛ってこういう行事系の事に積極的だよな。
「凛って走るの好きだったっけ?」
「んー、そうだねぇ。嫌いではないよ!!僕わりとスポーツ自体好きだしね」
「なら、リレーとかどうだ?女子のリレーと男女混合があるけど」
ほんの手助けのつもりでそう提案してみると、思ったよりも好感触だったようで「リレーか〜」と言いながら凛はふむふむと頷いていた。
「ちなみにだけどさ、刻くんは何に出るつもり?」
「俺か?俺はぜひとも何も出ないという選択肢を取りたいね。運動疲れる」
「えー、それじゃあせっかくの体育祭が楽しくないじゃん!」
「いや、どちらかと言えば俺は観戦したい派だからなぁ」
そこまで言ってから凛の方を見ると、凛はプクッと頬を膨らませ唇をツーンと少し尖らせていた。
「じゃあ、刻くんが何も出ないんなら僕も出ない!」
「え……えぇっ!?何で!?」
凛による突然の宣言に俺は思わずたじろいだ。
(楽しみそうにしていたのに、参加しない方がもったいないと思うんだけど)
だから、凛のその言葉の真意を謀りかねてしまう。
「何でって、理由は簡単だよ。刻くんがいないんじゃ僕が出る理由もなくなるじゃん?」
そう言うと凛はずいっと俺の方に身を寄せてきた。
そして俺の耳元でボソッと呟く。
「僕は好きな人と一緒に体育祭を青春したいんだよ?」
「っ!?」
凛はそう言った後にこぶし四個分ほど距離を取ると、凛はこちらの顔を見てにへらと笑った。
ここまでストレートに言われたのは初めてかもしれない。だからだろうか。今俺史上最も顔が赤く染って熱を帯びている気がする。
「それで、刻くんは僕と青春してくれる?してくれない?」
蠱惑的な笑みを浮かべながら、凛は淡々と俺にそう質問してきた。あまりにもずるい聞き方。首を横に振って「NO」と言えるわけがない。
「……分かったよ。凛と青春してやるよ」
「それは楽しみだ!」
笑みを浮かべたまま喜ぶ凛の姿を見て、俺は存外単純な人間なのかもしれないと思った。
✲✲✲
「刻と凛は何に立候補する予定?」
一時間目のロングホームルームが終わった直後の休み時間。結局今年やる競技の再確認やら何やらで時間を食ってしまったせいで、出場する競技が決まることはなかった。
そのためか、わざわざ空宮が少し離れた席から歩いてこちらまで来て俺達にそう聞いてくる。
「んー、そうだね。僕は走る競技がいいかな」
「おー!刻は何にするつもり?」
「正直出れるんならなんでも」
そこまで言うと空宮は少し驚いた感じでこちらを見てきた。
「刻が体育祭に積極的な姿勢だ!?」
「失礼な。空宮は俺がなんて言うと思ってたんだよ」
「え?ぜひとも何も出ないという選択肢を取りたいですね、とか?」
そう言われて俺と凛はお互いに顔を見合わせて笑った。
「すごいね蒼ちゃん」
「だな」
「え、え?何がすごいの!?」
俺達はそう言ってあわあわとしている空宮を見てまた笑った。
第168話終わりましたね。今回は凛がまたもやアピールをしてくる回でした。恋する乙女は強い!
さてと次回は、25日です。お楽しみに!
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