第165話.アイス
江草と駅で別れてから俺は摂津本山駅に向かった。
駅に着くとホームから改札に向かい、ICOCAをピッと当てるとそのまま外に出る。
10月にも入って少しひんやりとした空気が流れ始めた。
「あれっ?刻今帰ってきたの?」
駅から出てほんの少し歩くと声をかけられる。髪の毛をポニーテールにしてまとめている女の子。
そう空宮だ。
「そうだけど。そういう空宮は何してんだ?今日はなんか用事があるやらなんやら言ってたけど」
「あー、用事はもう終わったよ」
「そうなのか?じゃあ何してんだここで」
空宮の服装は非常にラフでゆるっとした白い無地のTシャツを着ている。
「それはねぇ、アイスでも買おうかと思って」
「アイス?」
「うん」
「太るぞ?」
「んなっ!?」
頬を軽くピクピクと引き攣らせながら、空宮は俺の方を軽く睨んできた。
「べ、別にー?太ったら太ったで運動すればいいし。それにアイスは冷たいからゼロカロリーって、どこかの芸人さんが言ってたし!」
「ゼロカロリー云々は置いといたとしても、空宮特に運動してないだろ」
「し、してるしっ!毎朝走ってるもん!」
「何キロ?」
「な、何キロかは分かんないけど……でも、毎日10分は走ってるよ!」
自信あり気にそう言う空宮に思わず頭を抱えた。
(10分って絶対に大した効果無いよなぁ)
ただこれを言ったら空宮の心がポッキリと折れそうなので、どうしようか迷う。
まぁ、空宮のためを思って言ってあげるとするか。
「なぁ、空宮」
「ん?」
声をかけると空宮はこちらの目を見た。
「多分さ、10分じゃ大した効果無いぞ?」
「えっ……」
そう言うと空宮は軽く絶望したように、目のハイライトを消す。
「う、嘘だよね?」
「いや、多分ほとんど無い。空宮がどれくらいのスピードで走ってるのかは知らないけど、ジョギング程度だったら本当に効果が無いと思う」
「そ、そんなぁ……」
空宮はがっくりと項垂れ、そのあとうるうるとさせた目でこちらを見てきた。
「じ、じゃあ私の楽しみはどうなるの……」
「そうだなぁ」
腕を組みながら俺はちらりと空宮に目を見やる。
しょんぼりとしている空宮のその様子は、なんだか可愛いく見えてきた。
だから、特別に手助けをしてあげる。
「じゃあ、俺とアイス半分こにするか?」
「え?」
「だから、半分に分けるかって聞いてんの」
俺がジェスチャーでパキッと分けるような仕草をすると、空宮は「あー」と言って、ポンッと手を叩いた。
「でも、本当にいいの?」
「別にいいぞ。アイスの話してたら俺も食いたくなったし、丁度いいだろ」
「やったー!」
両手をバッと広げながら空宮は喜んだ。
「じゃあ、買いに行くぞー」
「うんっ!」
俺が歩き出すと、空宮はそれに着いてくるようにして歩き始めた。
✲✲✲
コンビニに入ってから適当に選ぶと、俺達は会計を済ませて外に出る。そして、どこで食べるのかという話になった後、近所の公園で、という事になった。
あの公園小さいからベンチとかは無いんだよな。ブランコに座る感じか。
俺は1人そう思いながら歩いた。足を踏み出す度に、手に持つビニール袋がガサガサとなっている。
「楽しみだなぁ〜」
空宮は満面の笑みでそう言いながら、俺の腕に自身の腕を絡めてきた。
「歩きにくいんだけど?」
「えー、別にいいじゃん。減るもんじゃないし」
「減らないけど、歩きにくい事実はなくならないんだよなぁ……」
軽く溜息をつきながら俺は見えてきた公園に早足で向かう。俺に腕を絡めていた空宮はその突然な事に対応しきれず「おととっ!?」と言って躓きそうになっていた。
「あ、危ないじゃん」
「そりゃすまん。でも、腕を絡めてきてたの空宮だしなぁ」
皮肉を込めてそう言うと空宮はキョトンとした表情を浮べる。
なぜこのタイミングでその表情なんだよ。
「私が転けそうになったら刻助けてくれるでしょ?」
さも当たり前のように「そうしてくれるでしょ?」と言わんばかりの素のトーンで空宮にそう言われた。
俺はこれを空宮からの信頼の証ととっていいのか分からず、少し返す言葉に詰まってしまった。
「助けてくれないの?」
もう一度そう聞かれて俺は少しだけ頬に熱を帯びたのが分かる。
そんな顔で見つめられたらいやでも照れてしまう。
そんな俺を知ってか知らずかは分からないが、空宮はどんどん俺を追い詰めていった。
「た、助けるよ。反応出来ればだけど」
「この位の距離なら、刻だったら余裕で間に合うよ」
空宮はそう言いながらもう一度、俺の腕に自身の腕を絡めてきた。
空宮を剥がすつもりだったのに、むしろさっきよりも引っ付かれてる気がする。
心臓に少し悪い。
信頼しきった表情で俺の横に立たれると、どうしてもその期待に応えたくなってしまう。それが空宮なら尚のこと。
「はぁ……」
俺は誰にも聞かれない程度に溜息を着くと、公園のブランコに腰掛けた。さすがに一つのブランコに2人座ることは難しいので空宮は俺から離れて、隣にあるもう一つのブランコに座る。
座った反動で錆びたブランコの鎖はギィと音を立てた。
静かな街中に響く金属音。そして、ガサゴソとなるプラスチック製の袋。
この変わった組み合わせに少し笑いながら、俺は買った時とおなじ温度を維持している冷たいそれを出した。
第165話終わりましたね。今回は甘々なんてものはほとんどないですね。次回辺りに少し甘々を少し入れて次は体育祭かハロウィンですかねぇ。
さてと次回は、19日です。お楽しみに!
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