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第162話.私だけの秘密

 江草が戻ってきてからしばらくの間華山の看病を続けていると、玄関の扉がガチャりと解錠される音が聞こえた。するとその音が寝ていた華山にも聞こえたのか、華山は閉じていたまぶたをゆっくりと開き始める。


「あ、華山起きたか」

「有理先輩大丈夫ですか?しんどくないですか?」


 そう話しかけると華山は体を起こしながら、少し困惑したような顔を浮かべる。


「しんどくはもうないですけど、そ、その鏡坂くん達はなぜここに?」

「あぁ、それはな……」


 華山に説明をしようとすると、勢いよく扉が開く。


(そういえばさっき誰か入ってきてたよな。いや、誰なのかは分かりきってるんだけど)


「有理ちゃんっ!!」

「お、お姉ちゃんっ!?ど、どうしたのそんなに慌てて?」

「そんなの、有理ちゃんの事が心配だったからに決まってるでしょ!!」

「そ、そんなに汗をかいてまで急ぐ話でもなかったのに」


 華山がそう言うと、「ぜーはー」と息を切らしてる先生は一度深呼吸をしてから華山の頬を両手で包んだ。


「いい?お姉ちゃんが大切な妹の事を心配するのは至極当たり前のことなの。それがたとえただの風邪だったとしてもね」


 珍しく華山に対して真面目な表情をしてそう話すので、華山は目を大きく開けて先生の話を聞いていた。


「分かった?」

「う、うん」


 その返事を聞けた先生は満足そうにこくりと頷き「分かったならよし!」と言って両手を頬から離した。


「鏡坂くん達もありがとうね」

「いえ、私達は有理先輩の事が心配だったので、当然のことをしたまでです!」


 江草はそう言ってエッヘンと胸をそらした。


「あ、あの……」


 少し小さい声で手を上げながら、俺達に華山が何かを聞きたそうに話しかけてきた。全員そちらを向くと、華山ピクっと体を強ばらせながら話し始めた。


「そのさっきも聞こうとしたんですけど、鏡坂くん達はどうてここにいるのか分からないんですけど……」


 華山が申し訳なさそうに言うので、先生がその説明を始めてくれる。


「あぁ、鏡坂くん達にね私がすぐに帰れなくなっちゃったから、有理ちゃんの看病をお願いしたの。有理ちゃんが今だいぶ熱が引いてるのも、つまりはこの2人のおかげってわけ」


 それを聞いた華山はあからさまに驚いた様な表情を浮かべて、すぐにぺこりと頭を下げた。


「す、すみませんっ!私が迷惑かけてしまったみたいで……」

「いいんですよ。私達は有理先輩が元気なのが一番ですから!」

「俺も右に同じ」


 そう言うと華山は顔を上げてからもう一度「すみません」と言った。そしてそれを見ていた先生は「有理ちゃん」と名前を呼ぶ。


「こういう時はすみませんじゃなくて、ありがとう、だよ」


 それを聞いた華山はもう一度俺達の方を見てぺこりと頭を下げてから「ありがとうございます」と言った。


「よしっ、有理ちゃんの事についてもお礼を言えたし、私も帰ってきたから看病も私ができると。そうだ、鏡坂くん達はお家まで送ろうか?ここまで来るのに無駄にバス代とか払わせちゃってるから、帰りくらいは無駄な出費を減らしてあげたいんだけど」

「いや、大丈夫ですよ。バス代くらいすぐに親が稼ぎます」

「あはは、そこは自分で稼いぐって言って欲しかった」

「いや、うちの高校家庭の事情がないとバイトできないし、別に俺の家に事情ないからな」


 俺と江草がそんな話をしてると先生は苦笑いを浮かべながら「じゃあここまでの交通費と、せめて玄関くらいまでは見送らせてね」と言ってくれた。


「あ、でも外も結構暗いね。江草さん危なくないかしら?」


 先生がそう言うので俺は試しに江草の方に目を見やると、江草は少し呆れたような感じで笑いながらスマホをの画面を見せてくる。


「大丈夫です。幼なじみが最寄り駅まで迎えに来てくれるらしいので」

「あら、そういうこと。それは邪魔しちゃ悪いわね」

「うぅ……。先生にも勘違いされたぁ……」


 ニヤニヤと笑いながら先生はそう言うので、江草は少し頬を赤く染めた。


「さて、じゃあ有理ちゃん私は今から鏡坂くん達の事見送ってくるからね」

「あ、じゃあ私も」


 そう言ったタイミングで全員の視線が華山に向き全員に「「「休んでなさい」」」と言われていた。


「ご、ごめんなさい」


 俺達はしゅんとなっている華山のその様子を見て、軽く笑ってから玄関に向かう。

 靴を履き玄関扉を開けたところで先生が「今日は本当にありがとうね」と言った。


「いえ、心配だっただけですから」

「困った時はお互い様です」


 そう言うと「ふふ、そうね」と先生も笑う。


「気をつけて帰ってね」

「はい」


 俺達はそう言って会釈をすると華山宅を出た。


「有理先輩元気になって良かったですね」

「だな。明日には多分来れるんじゃないかな」

「だといいですね」


 街灯の明かりだけが頼りな道を歩きながら、俺達は他愛もない話をしてバス停に向かう。

 にしても、


「あの事は華山覚えてなかったのか」

「先輩何か言いました?」

「いや、何も」


 誤魔化しながら別の話題を江草に振ったのだった。



✲✲✲



 お姉ちゃんが鏡坂くん達のことを見送りに行ったため、部屋には私だけが取り残された。


「わ、私ったらなんて事を……」


 私は誰もいない部屋で1人そう言って熱で赤くなった顔を両手で覆い隠す。

 鏡坂くんは多分私が何も覚えてないと思っているんだと思う。熱も出てたし、私自身すごく朧気な記憶だから。だけど、手に触れた感触と、口からポロッと出た言葉だけは記憶にはっきりと残ってる。

 さらさらとした鏡坂くんの髪の毛。男の子らしい少しゴツゴツとした手。温かくて落ち着く体温。

 全部全部残ってる。

 だから本当に覚えてるって気づかれなくて良かった。

 もし、気づかれてたら恥ずかしくて話せなくなってしまう。


「はぁ……」

「ため息したらせっかく貰った元気も逃げ出しちゃうよ」


 何の気配もなくいきなりそう言われたので、私は体を強ばらせながらその声のする方向を見た。するとそこにいたのは、見送りを終えたお姉ちゃん。顔は少しニヤニヤとしている。


「あらあら、その赤く染った顔とさっきまでの様子を見るに、有理ちゃん何かあったのかな?」

「な、何も無かったです」

「本当かなぁ?」

「ほ、本当に、何も」

「へぇ〜?」


 お姉ちゃんがニヤニヤとした表情のままこちらに近づいてきたので私は耐えられずに布団の中に隠れた。


「あはは、いじわるしすぎちゃったかな?」


 お姉ちゃんはそう言ってから「もう少し休んでなさいよ〜」と言って部屋を出ていった。


「鏡坂くん……」


 私はぼそりと彼の名前を呼ぶと体を完全回復させるべく睡眠に入った。

 今はまだ、体と頭が疲れてるから。だからちゃんと考えるのはまだ先の話だ。


第162話終わりましたね。さて華山が元気になりました!良かったです!これで何話ぶりかに全員集合とかできるかな!?それは僕次第ですね。

さて次回は、13日です。お楽しみに!

それと「面白い!」「続きが気になる!」「華山ってやっぱり最高じゃん?」という人はぜひブックマークと下の☆から評価の方をお願いしますね!

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