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第160話.熱の勢い

 近くにあった椅子に座り、キュッと華山に握られた服の裾をじっと眺めながら江草が戻ってくるのを待つ。裾を掴む華山の指は細く華奢で、肌の白さがさらに目立っている。

 一度椅子に深く座り直すと「ふぅ」っと軽く息を吐いた。

 間違いなく緊張している。女の子の部屋にいるというのも理由の一つだが、それよりも何よりも相手が熱で寝込んでいて2人きり。さらに自分の服の裾を細い指でキュッと掴まれているこの状況。

 緊張しないわけがない。


「江草早く帰ってこないかな」


 ぼそりとそう呟きながら華山の顔を見る。

 俺達が部屋に入った時の表情よりかは、少しだけ安らいだような表情を浮かべていた。

 すーすーと柔らかい寝息を立てていて、見ているこちらも何だか安らいでくる。


「普段から頑張ってんだから、こういう時くらいは俺達の部長さんにはしっかり休んでもらわないとな」


 頬を緩めながらもう一度華山の頭を撫でる。

 さっきから俺頭撫でてばっかだよな。あれか、多分誰かの頭を撫でるのが俺好きなんだ。撫でてるとこっちは気分が和らぐし、空宮とかだったら顔赤くしたり嬉しそうにしたりと、表情が豊かになってて楽しいし。

 そんな事を考えながら撫で続けた。


「んん……」


 少しすると華山が声を出す。

 起こしてしまったか?と思いながら華山の顔を見ていた。


「お姉……ちゃん」


 しかしそれは杞憂で、夢でも見ているのか先生の事を呼びながら、俺の裾を先程よりもしっかりとキュッと握った。その様子は普段の華山よりも子供っぽくて可愛らしい。

 俺はしばらくの間そのまま寝言を言っている華山を見ていると、また華山が寝言を言った。


「鏡……坂くん」

「ん?」

「鏡坂くん……」

「ん!?」


 初めは聞き間違いかと思ったがどうやらそうではないらしい。確実に華山は寝言で俺の名前を呼んでいる。その事実がどうしようもないほどに俺の頬を熱で染めていく。


「居続けてください……さい」


 華山は俺の都合など関係なしにどんどん寝言を言い続けた。一体華山が何の夢を見ているのかは全く分からないが、俺からしたらそのセリフはまるでここに居続けてと言われているようで、鼓動が先程よりも早くなってきた。


(無自覚のこれはずるい……)


 自分の顔を片手で隠しながら一度華山の方から目を逸らした。今華山の事を見ると俺のメンタルが削れきってしまいそうだから。


「あれ……鏡坂くん?」

「へ?」


 突然明確な意志を持って俺の名を呼ぶ声がした。

 それはあまりに突然で俺はそれにちゃんと答えることが出来ない。


「えへへ、鏡坂くんだぁ〜」

「ち、ちょっと?華山?」


 華山は体を起こしてこちらを見ていた。

 俺の名前を呼んだ華山はどこか上の空というか、間違いなく明確な意志を持って俺の名前を呼んだが、意識は朧気というか。つまるところいつもとは確実に違う。

 普段の清楚な華山からどちらかと言うと幼い子供のような、甘えてくるようなそんな声音で、俺の名前を笑顔で呼んできている。


「その、起きたんならこの手離してくれないか?水とか取りに行きたいから」


 俺は可能な限り平常心を保ったままそう言う。すると華山は不満げに頬をプクッと膨らませた。


「嫌だ」

「いや、でもそれだと水を取りに行けないんだけど」

「別にそれでいいもん」

「えぇ……」


 この普段とは全く違う華山を相手に俺はどうしようかと頭を悩ませ始める。

 華山は一向に俺の裾から手を離そうとはしないし、かといって無理やり離したら離したで、今の状態の華山は何だか泣き出しそうだ。

 さっきも離してくれと提案したら少し目がウルッとしてたし。

 うーむと悩んでいると一瞬だけ、ほんの一瞬だけ裾にかかっていた重さが消えた。かと思えば俺の左手に暖かい人肌が当たる。

 見てみれば俺の指に華山指が絡んでいた。


「これで離れれません」


 完全に塞がれてしまった退路。こうされてしまうと本当に無理やり剥がすのは困難となる。なんせ相手は女の子。もし無理矢理にでも離して傷をつけてしまえば、俺に責任を取ることは出来なくなってしまうからだ。


「くっ……」


 俺は羞恥心とこの状況を見られたらどうしようかという焦りとで、ご茶混ぜの感情になってしまう。

 するとそんな俺の事を見ていた華山は、満足気な笑みを浮かべながら「こっち、おいで」と言って俺の手を引いた。

 風邪をひいている人の力とは思えない勢いで引っ張られた俺は、勢い余って上半身が布団を被った華山の上に重なってしまった。


「す、すまん!」


 そう言ってすぐに離れようとすると、華山がもう片方の手で俺の頭を抑えてきた。そして抑えてきた手はそのまま頭上でスライドする。


「あ、あの、何で俺の頭を撫でてるんだ?」

「んーとね、鏡坂くんが私の事を撫でてくれたからだよぉ〜」


 のんびりとした口調で華山はそう返してくれる。だが、俺としては「あ、そっかぁ〜」で流せる話ではない。なぜならば、華山には頭を撫でられたという記憶があるからだ。

 俺は華山は寝ていると思って撫でてた。だけど事実は違った。それだけで俺はとんでもない羞恥心に駆られてしまう。


「そ、その、そろそろ撫でるのをやめてはいただけないでしょうか?」


 そう提案すると華山は「えー」と嫌そうに言った後、少し悩む仕草を見せる。


「しょうがないなぁ」


 そう言って華山はやめてくれるのだと俺は思っていた。


 そう俺が勝手に思っていただけだった。


 だけど現実は頭から手のひらは離れ、絡んでいた指も解かれた。代わりに二本の腕で俺は包まれていた。


第160話終わりましたね。今回は華山が熱のせいで普段とは全く違う性格になってしまうというお話でした。甘えんぼさんなんですねぇ。

さてと次回は、9日です。お楽しみに!

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