第156話.ポニーテールの少女は決意する
江草と一緒に自販機から部室に帰ってくると、俺は早速買ってきたミルクティーを空宮と凛に手渡した。
「ありがと」
「ありがとうね〜」
空宮達はそう言うと俺の手からミルクティーを受け取る。
キャップを捻って開けると、2人は同じタイミングでくぴりと一口含んだ。
「ふぅ〜」
そう言うと凛は幸せそうな表情を浮かべる。
「美味そうに飲むのな」
「ん?そりゃあね。美味しいものを食べたり飲んだりしたらこんな表情にもなるよ」
そう言いながら自分の頬をつんつんと指でつついた。
「まぁ、分からんでもないけど」
そう言いながら先程まで座っていた席に着いた。そして俺もミルクティーのキャップを捻り飲もうとすると、前に座っている空宮と目がバッチリ合ってしまう。
空宮は両手でミルクティーの入ったペットボトルを持ったまま、こちらをじっと見ていた。
「何?」
「いーや。やっぱり何か凛と刻の間であったんじゃないかなーって思っただけ」
「いや別に……何も無いだろ」
少し言い淀むと、空宮は「ふーん」とだけ言ってぷいっと違う方を向いてしまった。
(なんかこの空気……居心地が悪いな)
そう思いながら一口口にミルクティーを含む。
空宮にはどちらかと言うと、今みたいに素っ気ない態度を取られるよりも明るく馬鹿みたいに笑ってて欲しい。でもこれは完全に俺のわがままだから、それを空宮に押し付けるのも違う。
華山の方に視線を送ってみるとその視線に気がついたのか、華山はこちらを一瞥するとにこりと笑った。
多分、自分で何とかしろ的な意味合いが含まれてる気がする。いや、間違ってはないけど。でも俺がこうなった原因を、全てを包み隠さずに言うのもなんだか違う気がするのも事実なんだよな。
「ふぅ」
軽く息を吐くと、今度は一気にミルクティーを喉に流し込んだ。残暑に少し頭がやられていたのかもしれない。そう思って俺は頭を体を冷やす勢いで飲み干す。
「空宮」
名前を呼ぶと空宮は「何?」と言いながらこちらを見た。
もうここは正直に何かがあった事は言おう。だけどその内容までは言わないでおく。これに関しては俺だけでなく、というよりも、凛の気持ちに関わってくる話だから。
「確かに空宮が訝しんでる通り俺と凛との間には何かがあった」
「それは何となく分かるよ」
「空宮が知りたいのはその内容だよな?」
そう聞くと空宮はこくりと頷く。
「ここまで言っておいてなんだが、内容については言えない」
「どうして?」
「俺よりも凛の気持ちの面に大きく関わってしまうからだ」
そう言うと空宮の瞳が少しだけ揺れた。
きっと、「凛の気持ち」という所に反応したんだろう。
空宮は少しだけ考えるような仕草をしてから「はぁ」とため息を一つ着いた。そしていつもの雰囲気を纏った空宮に戻ると喋り始める。
「分かった。深い理由は聞かないでおくよ。それに凛と刻の仲がさらに良くなることは別に悪いことじゃないしね」
「すまん。助かる」
「んーん、今回は私も少し嫌な態度取っちゃったからね。おあいこだよ」
空宮はそう言いながら笑った。
✲✲✲
本当はやっぱり詳しい理由を聞きたかった。だけどその理由の中に「凛の気持ち」が少しでも入っていたなら、私は引かなくてはならない。
本当は気になる。気になるけど。でも、そんな事よりもやっぱり刻の事も好きだし、凛の事も好きだから。無理に聞いて凛を傷つけたくないから。
だから今回はここで引く。
でもそれは今回まで。
多分凛と刻の仲が深まったのは凛がどこかのタイミングで露骨に、もしくは直接的に刻への好意を示したからで、それ以外に特に思い当たる節もない。
もしそうだとしたら同じく刻に好意を寄せる私としてはうかうかとはしていられないし、何より譲る気も毛頭ない。
だから、こそ次からは引かない。引いてはいけない。引いたら一瞬で刻は凛のものになっちゃいそうだから。
刻の事は私が一番……。
「好きだから」
「ん?何か言ったか?」
「んーん、何も言ってないよ」
勉強会を終えた帰り道。
私は思わず刻への気持ちを零してしまっていた。だけど刻は幸いにもそれには気が付いていない。
いや、気付いててもいいんだけど。むしろ気付けとまで思うが、鈍感な刻の事だ。言わないと気付かない。
だけどこの気持ちは私が直接自分の言葉で刻に伝えたいから。
やっぱり気付くなって、思っちゃう自分もいる。
そんな矛盾だらけの未熟な自分を笑いながら、私は刻に一歩近づいて帰路を辿った。
第156話終わりましたね。今回は空宮がちゃんと刻にこの気持ちを言うと決意した回でしたね。好きな人に好きという気持ちを伝えるのは簡単なことではありません。ですから、今回の空宮は大きな一歩となったんじゃないかなぁ、と僕は思っています。
さてと次回は、1日です。お楽しみに!
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