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第146話.凛

 予想外だ。反則だ。僕が刻くんを照れさせて、僕の事を意識させる。そこまで僕の予想だったら完璧だったはずなのに。なのに今クッションに顔を(うず)めて、意識してるのはどっちだ。


 そんなの誰に聞くまでもなく分かる。


 僕だ。僕の方だ。このどうしようもない自分自身だ。


 1人の男の子を意識させようとしたら、フルカウンターを食らった僕、凛・テイラー自身だ。

 はぁ……。頬に帯びた熱は引く気配がないし、頭の上には僕を撫でる刻くんの手があるから、起き上がろうにも起き上がれない。

 本当は僕の家でアニメ鑑賞をするのを口実に、刻くんとお家デートを実行して、もっと僕の事を意識させるつもりだったのに。逆に僕がもっと意識させられる羽目になってしまった。


(自分自身が不甲斐ない)


「おーい、凛?拗ねたのか?」

「……拗ねてないよ」

「そっか。なら良かった」


 刻くんの手は相変わらず私の頭を優しく撫でてきている。

 顔をクッションに埋めている僕には、刻くんが今どんな表情を浮かべてるのか分からないけど、何となく刻くんもこの状況に多少なりとも照れを感じろ、とそう思うのは僕だけの秘密。

 しばらくの間刻くんに頭を撫でられた後に、僕はムクリと起き上がった。

 刻くんの方を向くことは羞恥のあまり出来ない。


「めちゃくちゃ顔赤いじゃん」

「う、うるさいよ……」


 どうしても素っ気ない態度を取ってしまう。

 でも、意識させようとしたら逆に意識させられてしまったんだから、多少は仕方がないとも思っている。だけど、一方的にからかわれるのは、何となく負けた気がしてならない。

 だから、無理やり刻くんの事を抱き寄せて照れさせて意識させて、ついでに僕の胸で窒息させようと思ったんだけど……。

 機会をうかがうために刻くんの顔をこっそり盗み見たら、そこにあった刻くんの表情は僕と同様に真っ赤に染ってて、だからまぁ、今回は負けてあげてもいいかなって思っちゃった。



✲✲✲



 思っていたよりも長く、そしてやたらと恥ずかしい休憩時間を過ごした後に、またアニメ鑑賞の続きを再開した。

 僕と刻くんの距離感は、先程あんなことがあったというのにむしろ少し近づいている。少し肘をあげればコツンと当たる程度には近い。


「次何見る?」

「えーと、じゃあラブコメ系で!」

「了解」


 刻くんは慣れた手つきで、今から見るラブコメ系のアニメを探し始めた。


「ラブコメ好きなのか?」

「んー、好きっていうか、共感?できることの方が多いかも」

「共感か。俺はあんまり意識したことないけどな」


 刻くんは少し思い出すような仕草をしながらそう言った。


「共感できるところも結構あるんだよ?特にヒロイン目線の時とかは」

「そうなのか。何かそう言われると凛に好きなやつがいるみたいな感じがするな。いやまぁ、いたとしてもいいんだけど」


 刻くんはそう言いながらくつくつと笑っている。

 だけど反対に僕の頬はほんのりと熱を帯び始めた。今日一日で何回頬が熱くなったのかもう分からない。


「いるよ」


 僕がそう言うと刻くんは「え?」と言って聞き返してきた。


「だから、好きな人」

「そうなのか。それが本当なら凛に好意を持たれるそいつは幸せ者だな」


 刻くんはそう言うとまたくつくつと笑う。

 だけど、僕にとっては刻くんのそのセリフがあまり面白くない。まるで、初めから自分をその可能性から排除してるような気がするから。


「刻くんは気にならないの?僕の好きな人」

「んー、気になるっちゃ気になるけど、無理に聞くことでもないしな。むしろ、無理やり聞いて凛に嫌われることの方が俺は嫌だからさ。だから聞かない」


 刻くんはキッパリとそう言った。


「そっか」


 僕はそう言うと「もう、どうにでもなれ」と思って、ゆっくり刻くんの方に体を向ける。

 刻くんはテレビの方を向いて次にラブコメの何を見るのか選んでいるので、僕が刻くんの方を向いていることには気づいていない。

 だからこそ「どうにでもなれ」と思ったし、「今がチャンス」だとも思った。そして何よりも……、


「蒼ちゃんに負けたくない」

「ん?何か言ったか?」


 気づいたら僕の心の声は外に漏れて、刻くんの耳にも少し届いたみたいだけどもう気にしない。遠慮もしない。


 後悔だってしたくない。


 僕は両手を伸ばして刻くんに勢いよく抱きついた。


「ち、ちょっと凛!?どうした!?」


 刻くんは急な事にかなりパニックになっている。だけど、決して僕は刻くんの事を離さなかった。


「ほ、本当にどうした?」


 しばらくすると刻くんも落ち着いてきたのか、先程のように僕の頭に手を乗せて撫でながらそう聞いてくる。

 その刻くんの手にどうしようもない程に安心感を抱きながらも、ゆっくりと口を開いた。



「刻くん」

「どうした?」

「刻くんは自分の可能性をゼロパーセントで見すぎだよ」

「え?」


 刻くんは困惑の声を出すが、その後に続くセリフは無い。多分僕の言葉を待ってるんだと思う。

 僕が言った「自分の可能性」が指す意味に確信を持てないから。もしくは確信を持っていたとして、信じられないから。

 だから、僕は教えてあげるだけ。


「刻くんの事を好きな女の子が、ここにはいるんだよってことをだよ」


第146話終わりましたね。今回ほど自分で書いててドキドキした回はないんですけど、皆さんは読んでてどうでしたか?ドキドキしましたか!?してくれてたら嬉しいです!

さてと次回は、12日です。お楽しみに!

それと「面白い!」「続きが気になる!」「ニヤニヤが止まらない!」「心臓バクバク!」「凛可愛ええ!」という人はぜひブックマークと下の☆から評価の方をお願いしますね!

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